私にとって、好きな本を読むことは孤独だった。「アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風」(神林長平著)に出会うまでは。
小中高の昼休みの間はずっと、私は図書室にこもっている本の虫。
授業以外で他人が私に話すのは、私をからかう時だけ。つまり、当時の私にとってコミュニケーションとは、他人に傷つけられる事だった。
だから図書室に逃げ込んでいた。自分を守るため、あなたと話す暇はないの、とアピールする手段としても本は有効だった。本を読むと先生は褒めてくれるし。
宇宙で戦争をするSFは最高!と我が道を突き進んだ私
学校の本好きの間でも、私以外の人は恋愛小説のロマンチックで素敵なシーンで盛り上がっていた。一方、私は。生き延びるため全力を尽くす人間の姿から元気をもらいたい。けど、実在の題材の本はしんどいから、宇宙で戦争をするSFは最高!と我が道を突き進んでしまったのだ。
自分が好きな本を読むことは、1人になること。それが、私の人生。このようにぼっちを極めていた私は、大学に入るとTwitterに入り浸った。ツイートすることはあったが、あくまでも独り言と、Twitterを満喫していたある日。
「戦闘妖精・雪風は戦闘機と人間の恋愛を読めるSFだよ」というツイートが目に飛び込んできた。なんじゃそりゃあ。興味を惹かれ、戦闘妖精・雪風シリーズを私は読んでみた。
戦闘妖精・雪風シリーズをざっくり説明すると、地球に攻めてきた謎の敵ジャムの本拠地、フェアリィ星で戦う戦闘機の雪風と人間の関係を描いた3部作だ。まだ書籍化されていないが2022年現在、4部も雑誌に発表されている。
「訳がわからない癖の強いSF」の感想をツイートしていた
アンブロークンアローは雪風シリーズの3冊目だ。なぜシリーズの3冊目が私の人生を変えたのか、不思議に思う方もいると思う。というわけで、1冊目と2冊目の感想を少しだけ書かせてもらう。
1冊目は、雪風が束縛彼氏の如く雪風に執着するパイロットを機外に放り出すシーンで、私まで失恋した気分になって、米津玄師のLEMONを衝動買いした。2冊目は色々あってパイロットと雪風が仲直りする。よかったじゃん。
と、1冊目と2冊目は、自分一人で読書体験を完結できたのだ。特にツイートもしなかった。
しかし、3冊目のアンブロークンアローは、私にとって「訳がわからない癖の強いSF」だった。
まず、視点がコロコロ変わる。地球のジャーナリストのシーンかと思えば、次の行ではフェアリィ星の最前線にいる兵士に視点が移る。時系列も多分ぐちゃぐちゃ。なのに、爽快なフィナーレを迎える。
何が何だか分からない。でも、言葉にすれば少しは理解できそうだ。気づけば私はアンブロークンアローの印象的なシーンの感想を言葉にして、ツイートしていた。
好きな本を読むことは、誰かと仲良くなれることに逆転した
今までSFの話をしていなかったから、話題が違いすぎて嫌われるかも。そう思っていた。ところが。
「相葉さんも戦闘妖精・雪風を気に入ってくれたんですね!嬉しいです!」
「実は僕もこの本好きなんです」
好意的な返信だった。
独り言を全世界に展示するだけのTwitterは、アンブロークンアローの感想をツイートした瞬間、人と人を繋ぐソーシャルネットワーキングサービスに変化していた。
感想を書きたくなるほどのアンブロークンアローを読んだ感動で、ずっと他人と距離を置く手段だった好きな本を読むことは誰かと仲良くなれることに逆転し、独り言だったツイートは誰かに届くメッセージになった。
そして、自分の言葉が誰かに届くという自信は、エッセイを投稿する勇気につながったのだ。
「アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風」が、本を読むことと、言葉を書くことをつないでくれたおかげで、私の人生を変えた本についてエッセイを書く今の私がいる。