自己啓発本や成功者の体験本は、私にはなかなか心に響かなかった。
そういう本はすごく好きでよく読むが、私は8年ニートをこしらえるほどの捻くれ者であるので、先人たちのありがたい言葉を理解しづらい脳のつくりをしているらしい。

そんな中、『氣仙えりかのフェイクスイーツテクニック&アイデアBook』という、手芸コーナーにあった可愛らしい本が、私を変えた。

ネットで見かけたフェイクスイーツ。そのメルヘンさに心を奪われた

私は大学を中退してメンタルを病んで身体を壊していた。
ひきこもりの才能もあるので働かず、家でダラダラとネット徘徊するだけでも楽しく1日を過ごせていた。だけど家族に対して気まずいなという気持ちは持ち合わせていたため、自宅で何かできないかなと思った時だった。

ネットで、フェイクスイーツがハンドメイド作品として話題になっていることを見かけた。フェイクスイーツとは、いわゆるスイーツの食品サンプルだ。自宅でも粘土や絵の具を揃えれば作ることができるらしい。見た目も可愛いし、フェイクスイーツをアクセサリーにして売っている人もいた。
そのメルヘンさに私は心を奪われ、「私も作りたい!」と思った。

しかし、今まで何かを作る、いわゆるハンドメイド自体の経験もない。フェイクスイーツの作り方をネットで検索しても載っておらず、わからん。
とりあえず、『氣仙えりかのフェイクスイーツテクニック&アイデアBook』という本を買ってみた。フェイクスイーツの基礎から応用まで幅広い作り方が丁寧に載っている。

普通だったら「よし!コレから自分でも可愛いフェイクスイーツを作れる!」とワクワクするところだろう。
しかし本を買った段階で、「本を買うだけで満足して作らないかも」と不安と怖さが勝っていた。

フェイクスイーツ作りは、本や勉強へのトラウマを破ってくれた

実は私、学生時代、進学校に通っていたが、人間関係がうまくいかなくなり精神を病んで、勉強が手につかなかったのだ。
テストの点数が悪い以前に「勉強をする」という行為ができない事態に陥っていた。勉強机に座ることができない、教科書を開くまで何時間もかかる、教科書やノートに書いてある文章が頭に入ってこない。テスト前日の1番やばいやばい!と焦る時でさえもそれだった。
先生や家族に相談しても、「それは怠けている。甘え」と言われた。
「私は自分で勉強をするという作業ができない人なんだな」と思って、勉強すること、本を読むこと、勉強机に座ること、何もかもがトラウマになっていた。

しかし、『氣仙えりかのフェイクスイーツテクニック&アイデアBook』は、そのトラウマをぶち破ってくれた。
まず本を読まずにはいられない。表紙も中身もめちゃくちゃ可愛いスイーツの写真で溢れかえっているのだ。「マカロンの作り方」「いちごの作り方」と、その作り方の写真を眺めるだけでも癒される。

作り方の工程を読む。それに沿って粘土を捏ねる。着色をする。整える。を反復でやっていく作業は、流れ自体は「自分で勉強をする」と変わらない。
けれど、真っ白で平坦な粘度が、綿棒や爪楊枝でツンツンしてお菓子や果物にちょっとずつ変わっていく様は楽しかった。
そうやって見よう見真似でフェイクスイーツを作ることに、私は大ハマりした。
ネットに載せたところ、可愛いと評判だったので、アクセサリーにしてネット販売もした。

自分で学んでみた経験が、不安を晴らしてくれる

このような経験を踏まえて、「私は自分で学んで、行動に移すことができる人だ」という自信ができた。
それからフェイクスイーツにとどまらず、私はいろんなことに興味を持つようになった。
洋裁、イラスト、コーディング、動画編集、色彩検定、スチール撮影などなど。全て独学でやってみた。そうやって身につけたスキルで他人に喜ばれたり、販売や仕事にもつながったりしている。

最近はオタク界隈では、グッズをハンドメイドでデコることが流行っている。フェイクスイーツを通してハンドメイドについては一通り知識も持っているので、「コレ可愛い」と思ったらすぐ作ることもできる。
あれこれ手を出しすぎて、なかには「どういうこと?」というエラーを繰り返して匙を投げたものもあるが、それは自分に向いてなかったと一旦忘れて、落ち込むことはしなくなった。

今は会社で人間関係がうまくいかなくなり(またかよ)失業中なので、次のやりたい仕事に向けて日々勉強している最中だ。
もちろん、独学だけでは習得できないものも、先生というものについて教わらなければ上達しないものもたくさんあるだろう。
でもとりあえず「自分である程度は学ぶことができるんだ」という経験があるだけで、先行き見えない不安のモヤを少しだけ晴らしてくれるのである。
「自分で学んでみる」これは人生の作り方の中で、最も大切なことの一つではないだろうか。