昔から、中性的な女性に憧れがあった。
でもわたしは背も低いし、長い髪を切る勇気もないし。お喋りな性格だから、クールに振る舞うこともできないし。自分の理想は、自分とは程遠すぎた。憧れを目指して、憧れを真似て、周りから「痛い」と思われるのが怖かった。自分の身の丈に合った格好をしようと思った。

風に揺れるワンピースを着こなす女性になろうとした

小柄なおかげで、大して綺麗な顔もしていないのに「小さくて可愛い」と褒められることが多かったわたしは、風に揺れるワンピースを着こなす女性になろうとした。
髪はサラサラロングを維持。膝丈のワンピースを何着も買って、それに似合う靴、バッグ、アクセサリー。“わたしらしい格好”じゃなく、“小柄な可愛らしい格好”を目指した。

「痛い」と思われることを怖がるのは、自分が他人をそういう目で見てるからだ、と気づいた。最近流行りの地雷メイク、女装男子、ふくよかな人がミニスカートを楽しむ姿。街でたまに見かけるほんのちょっとのマイノリティを、「痛い」と思っていたのは自分だった。マイノリティを「痛い」と思う、そんな心を持つわたしの方がよっぽど痛い。

小柄なわたしが中性的な格好をするのは、周りから見たら痛いんじゃないか。自分の憧れを「痛い」と決めつけていたのは、世間の目じゃない。わたしの目だった。

髪を切り、真っ黒の服を着た。憧れに近い自分で生きることが楽しい

大学3年の秋。高校生の頃から何年もお世話になっている美容師さんに、「バッサリいっちゃってください!もう結べないくらい!」と告げた。
きっかけはなかった。強いていうなら、ワンピースを着るには寒い時期になったから。ワンピース以外の“小柄な可愛らしい格好”を知らなかったから。
もう、いいや。痛くても。

それからしばらくして、長く付き合った恋人と別れた。ずっと可愛い彼女であるために着ていた服も、靴もバッグもアクセサリーも日の目を見なくなり、ゴミに出した。レース生地のトップス、ふわふわしたピアス、パステルカラーのバッグ、そして風に揺れるワンピース。大量の“女性らしさ”を捨てた。

楽しかった。「今までの自分と今の自分が違いすぎて着る服がない!」と困ることが。
ショートヘアに、全身真っ黒の服を着た。ピアスをたくさん開けて、シルバーのアクセサリーで揃えて、タトゥーを入れた。昔の友達が見たら「デビュー」だし、他人が見たら「似合ってない、見合ってない」。
でも、昔より圧倒的に憧れに近い自分で生きることが、最高に楽しかった。

万人ウケなんてしなくていい。わたしなんて、わたしにウケれば充分だ

風に揺れるワンピースを着こなす女性になろうと頑張っていた頃のわたしに伝えたい。
他人に“痛い”と思われたら、なんて考えなくていい。
わたしも含めて全員が、自分の好きを追っていい。
自分に似合うものや見合うもののために我慢しなくていい。
こうあるべきと教わった通りに生きなくてもいい。
育ってきた環境で習ったことを忠実に守らなくてもいい。
今ある何かにはまろうとしなくてもいい。
自分がしたいと思う格好をしてもいい。
自分の好きなことを大声で好きと言ってもいい。

万人ウケなんてしなくていい。わたしなんて、わたしにウケれば充分だ。