問題は、私は知識も意見もあり、時には相手を凌駕する場合もあること

「今回は、ラジオ出演の依頼を引き受けていただきありがとうございます。あなたには、僕と一緒に番組をしていただければと思いまして。僕が番組でMCとして話をするわきで、あなたは『そうだったんですね〜!』『知りませんでした〜!』とか、言ってもらえませんか? そうすれば、僕があなたのわからないところに答えますので」

――またこういう依頼が来たか。
目の前にいる白髪の男性を見ながら、私は心の中でため息をついた。

地方のFMラジオ局でパーソナリティをしている手前、たまに「一緒に番組に出てほしい」と依頼がある。そしてその中で、たま〜に、狂言回しのような、無知のアシスタントのような立ち位置のものを依頼される。
ただ、問題は、私もそれなりに知識があり、意見もあり、時にはそれが相手と同等か、もしくは凌駕する場合もあるということだ。

今回の場合もそうだった。「番組に一緒に出てほしい」と私に依頼するわりに、相手は私を「無知な人」という前提で話を進めていた。
実際の私がどうかは関係ない。しかも、「わかっている」依頼主に「無知な女性」の私が教えを乞うという構造までもがあらかじめ決まっていた。私はつまり、最初から添え物として仕事を依頼されたのだ。

自分が気持ちよくしゃべりたいだけ。女性の個性や考えは配慮せず

それにしても、なぜ、こうも「教えてあげたい人」は多いんだろう? なぜ、アシスタントは「若い女性」と相場が決まっているんだろう?
アジアの国々では、年下が年上に敬意を払うのが当然だ。だからだろうか、年長者は年下が反論すると憤慨したり蔑んだ目で見てくることが多くて、それが面倒で無難に「ヘー、シリマセンデシタ〜スゴイデスネ〜」と持ち上げることも多かった。

でも、まさか、彼はそれを本気にして、「年下の女性は従順に話を聞いてくれる無知な存在」と思っているのだろうか? ただ自分が気持ちよくしゃべりたいだけで、女性の個性や考えはそもそも配慮されていない。彼の話を聞きながら、過去の同じような経験の数々を思い出してうんざりし、私の顔の筋肉という筋肉から力が抜けていく。そして、もう色々どうでもよくなって、「あの、ひとついいですか」と私は口を開いた。

「あの、私がモノがわかってないという前提ですけど……私が無知という設定でお話を進められても、ご期待にはそえないと思います。私はそれなりに知識もありますし、意見も相当強いです。それに、以前同じようにご依頼をいただいた番組でも、結局そういうご期待にはそえなかったので」

「そういうのは大歓迎!」。伝わってないと虚しい気持ちになった

相手は、ポカーンとしていた。なんとなくその反応を見ていて、「この人、自分が若い女が無知だって決めつけてたってことに、もしかして今気がついたのかな」と思った。
2、3秒経った後、相手から「……そうですか。じゃあ、あなたが相手を喰ってたと?」と言われ、「まあ、そうかもしれないですね。てか、そうでしたね」と私も答えた。答えながら、「我ながら自意識過剰でおこがましい奴だな、私」と思った。

できることならこんなことハナから言わせないでほしい。でも、こういう人には言わないと伝わらない。なんなら言っても伝わらないかもしれない。すると、
「そうなんですね。でも、そういうのは大歓迎なんで! バンバン言ってください!」
と返ってきた。
私は「やっぱり伝わってないなあ……」と虚しい気持ちになった。もしかしたら、相手はバツが悪くてそう返答しただけかもしれないけど。きっとこの人は私の表情が死んでいることにも、私が侮辱されたと思ってることにも気づいてないんだろうな。たぶん、思ってるのは「こんなに生意気だとこの子はこの先苦労するから、教えてあげなきゃ!」くらいかな。

鼻水と汗を垂らし、勢いよく辛いカレーを食べてもモヤモヤは取れず

その日はそれがずっとシコリになって残っていて、むしゃくしゃしたので友達とネパールカレーを食べに行った。この気分を変えるために、ネパール人の店員さんに「カレー、辛めで!」と勢いよく注文した。
でも、鼻水と汗を垂らしながら勢いよく辛いカレーを食べたのにモヤモヤが取れなくて、家に帰って「これはSNSに書くしかねえ!」とFacebookを開いた。
そうしたら、「辻愛沙子賞大募集!テーマは「『わきまえない女』の日常」という広告が目に入り、「これは……!」と運命めいたものを感じて、今そのまま勢いに乗せて書き連ねている。

だれかを批判したいわけでもないんだよ。傷つけられたいわけじゃないし、傷つけたいわけでもない。だからといって、丸く収まるようにこちらが一方的にモヤモヤと我慢をしているのも違うと思う。
――だとしたら、私が経験したこの経験を「作品」として昇華させることが、一つの道なのではないか。そうすることで、少し社会が変わるのではないか。そんなことを広告を見ながら思った。

私はわきまえない女だよ。そんなわたしの日常を、ここに晒すよ。