社会人4年目。仕事にも慣れてきた。休みの日に遊んでくれる女友だちもいる。割と順調な日々を送っていた。しかし、一つ問題がある。

社会に出れば、出会いがゴロゴロ転がっていると信じていた。しかし、さっぱりないこと。
大学の頃に付き合っていた彼とは、卒業間際に、遠距離になるからとサクっとお別れした。社会人になれば、いい出会いもあるだろうと思っていた。
おかしいな、とは思いつつも毎日の生活が続く。職場恋愛も多いと聞くが、あんまり期待できない環境。そんな時、よく遊ぶ友だちに彼氏ができた。
話を聞くとどうやらマッチングアプリで彼氏を作ったらしい。興味はあったけど、なかなか踏み込めなかった。
友だちの体験を聞き、意を決してアプリをインストールした。

マッチングの前に立ちはだかったのは埋めるべき膨大なリスト

アプリを開くと、まずは登録が始まる。この道のりがとても長い。
相手に求める条件の選択肢がずらずら続く。年収、身長、体型、タバコ、休みの曜日、飲酒の頻度……。なんとか選択肢をこなす。
そして次は自分のターン。自分の年収、身長、体型、性格、趣味……。ようやく終わりが見えたが、最後の砦、自由記載のページ。大きな四角い空白がポカンと開いている。何を書けばいいのか頭も真っ白になった。

頭を抱えていると、例文が見られる。ありがたく拝見してみると、可愛らしい文章、元気そうな文章、当たり障りない文章。普段は使わない口調だけど、まっさらな状態から書くのに比べれば幾分かはマシだろう!と例文をコピーした。
写真も、あまりにも別人のように盛れすぎず、かといっていちおう自分なりに少しは盛れていて、カメラ目線すぎない写真をチョイスした。完成したページは、すごくそれっぽい女の紹介ページとなっていた。

「それっぽい女」になったら、次はスワイプ、スワイプ、スワイプ

こんなもんだろうと、登録を終えると、あれよあれよと男性の写真が並ぶ。ここからタイプの人にいいねを押していって、向こうも気に入ればマッチングするようだ。
出てくる人たちに、いいねかそうじゃないかを瞬時に判断する。スワイプの鬼。幾分か頑張ったから、これでいい出会いがあればいいかなとアプリを閉じた。

一晩寝かせて見ると、結構な反応がきていた。メッセージもそこそこ。
こんなにいろんな男性と一気に連絡を取れるだなんてすごいなあ。
感動しながらも、返信を一通り書く。数人の男性と、当たり障りのない話をすすめる。実家に住んでいるとか、休みの日はドライブに出かけるとか、犬がすきとか。やりとりを重ねて、中でも気が合いそうな人と、直接会ってみようと話が進んだ。
直接会うのは緊張するなと期待を膨らませる。日程を決めた後に、再度彼のプロフィール欄を見て、気に止まった一文があった。

むかっとした。でも、自分も同じことをしていた

「女の子に求めることは、肌が白くて、体型をキープできる努力をし続けられる子」
一気に青ざめてしまった。
だって私、地黒だし、体育会系の部活で鍛えた筋肉があって、ガッチリめの体型。多分この人の求める理想像とはかけ離れている。ていうか、この人の求める女の子らしさを満たす人じゃないと無理なんだな。そう思い、デートする前に断ってしまった。
「私はあなたの期待に応えられそうにないです」と。

何様なんだよ全く、とか、少しむかっとした。私の本質を見てくれる人じゃないとダメだと。でも、少し冷静になって考えてみる。自分だって、男の人に同じことをしているんじゃないかとハッとした。
この人は写真の雰囲気もいいし、趣味も合いそう。こっちの人は、ちょっと年収は高いけどチャラチャラしてそう。散々自分の求める男らしさを押し付けて、条件に合う人にイイねを送っているじゃないか。白肌好き男と同じ思考だ。

無意識のうちになぞっていた、ステレオタイプな「女の子らしさ」

というか、私のプロフィールだって当たり障りのない、「女の子らしい」を縁取っているように見える。
休みの日はドライブをするのが好きなこと、猫と暮らしていること、北海道出身なこと。地黒で筋肉質なことはもちろん触れていない。休みの日は、ビールと鮭とばをつまみにオンラインゲームをするのが好きなことも、シーツを最後に洗ったのがいつかよくわからないことも、女の子らしさからズレていることは書いてない。
ここで本当に彼氏を見つけるなら、まずは私がしっかりと自分自身と、本当に好みのタイプを見つめ直す必要があるなと反省した。

マッチングアプリを否定するつもりはなく、今まで出会うことのなかった男女が出会える素敵なツールだと思う。この令和の時代じゃ常識なんじゃないかなと思う。友だちや同僚からも、出会いはマッチングアプリだったとよく聞く。この話は、私自身が知らず知らずのうちに、自分の描く女の子らしさと、自分の好みの男らしさに囚われたままだったからうまくいかなかっただけの話だ。
私がわきまえない女になってから、もう一度チャレンジしてみたい。もちろん、その時出会うのは、わきまえない男の人だといいな。