「お前って、本当にピンク似合わねえよな」
私は小学校時代に音楽の授業で、隣の少年に何の脈略もなく言われたこの一言を今でも、ふと思い出すことがある。その日は、ピンク色のTシャツを初めて着ていった日だった。
別にピンクが似合わない女子がいても、いいではないか。ちょっぴり傷ついて帰った放課後。
ただ若き頃の私よ、そんなの序の口である。甘々の甘々である。
「化粧してる?」「眉毛とか整えたら?」先輩から言われる日々
新卒として頑張っていた3か月目。メールを開くと、憧れの上司からメールが入っていた。
「先日君を見かけたが、なぜすっぴんで仕事をしているのか気になった。接客業に従事する身として化粧は基本的なマナーだ」と書いてあった。
あー4回目だな、これ。
「化粧してる?」
「口紅、濃いのつけた方がいいよ」
「眉毛とか整えたら?」
今から思えば、どんな化粧をしていたんだと疑わんばかりの先輩からのご指摘の数々だが、当時の私は全力で化粧をしていた。
社会に出てからこんなに言われてしまうのであれば、「化粧なんて興味ない」なんて敬遠せずに、高校時代からギャルになって化粧を研究しておけばよかったとどれだけ後悔したことか。
「Bobbi Brownがおすすめだよ」とその上司から勧められ、「とりあえずBrown(茶色)ではなく、Purple(紫色)で頑張ります」と返すほどに無知だった私は、社会に入って最初の洗礼を受け、残念ながら今では新人の身だしなみを指摘する側である。
今思えば、社会の洗礼はそれだけではない。
会社で誰かが辞めれば、「女性ってすぐ辞めるんだよね」と誰かが言う。苦情対応で私が挨拶すると「君じゃ話にならない。違う人を連れてきて」と言われ、男性の同僚が私の言葉を繰り返すだけで問題が解決する。
「自炊しなさそうだよね」から続き、上司から食生活に口を出される休憩中。リラックスしていれば、「ちょっと、脚閉じなさいよ」と冗談交じりに先輩から指摘される。産休をとる同僚が一時的に職場に顔を出せば、「お菓子の一つもないのね」と心ないことを言う人に驚いたのはつい先日のできごと。
「男性の前では、かわいこぶらないと!」プライベートでも同じだった
女性としての縛りを感じるのは、プライベートでも一緒である。
「あなたは男性に対する態度と女性に対する態度が同じすぎるのよ。男性の前では、かわいこぶらないと!彼氏できないよ!」
友人との食事中に言われた指摘が衝撃的だった。聞けば、男性の前で女性の態度が変わるのは当たり前だというではないか。
自分らしくしていれば、きっといつか私という「人」を見てくれる人が現れる。自分に言い聞かせて彼女の意見を無視した結果、私がたどり着いた先は言うまでもなかろう。
それでもめげずにこれから交際も、結婚も、出産もできたらいいななんて考えてはいるが、出産を控えた友人と話せば、「旦那が無痛分娩じゃなくて、最初の子どもくらいは普通の出産でいいんじゃないかって。無痛だと産んだ気がしないって言うしね」と言われ、「あなたの旦那様が出産するの?」と返したのもつい最近。痛みを通してしか母親になれないなんて、そんなの絶対に違うと一人で嘆いた帰り道。
あゝ幼き日の私よ。残念ながら、ピンクが似合わないといわれたあの日から、あまり世界は変わっていない気がするの。
ただあなたはあの日から変わっちゃダメ。ピンク色が似合わないと言われて、「いいじゃん似合わなくても」と思っているままでいい。
私は私を自由にできる。誰かが「人」として見てくれると信じてる
あなたは社会に出て洗礼をうけるうちに、男性にも同じ色眼鏡を掛けそうになる瞬間がでてくるの。
男性なのに本当に身長が低いな。男性なのに料理するんだ。男性なのにすぐ落ち込むなんて女々しい。昇進意欲が全然ない人もいるのね。家事や育児を手伝わない?典型的な男性って感じ。なんてふと考えてしまうことも出てくるの。
でもそれだと、あなたはピンク色が似合わないと言ってくるあの世界の住人になってしまう。
あゝ幼き日の私よ。私は今、自由に生きています。
化粧はしていても、性格が男らしいと言われる。脚も座る時、閉じません。言いたいことは面と向かって言います。未だに男性にも女性にも同じように接します。
誰かが絶対私という「人」を見てくれると信じてます。産休も普通に取る予定です。お菓子は配らず、むしろ貰いたい派です。ピンクが似合わないのも相変わらず。
でもいいの。世界が私を自由にしてくれなくても、私は私を自由にできるから。
ピンクが似合わなくてもいいじゃないと周りに噛み付けば、洗礼を受けることもあるでしょう。
でもどうか負けないで。世界があなたに追いつくその日まで。
あなたはピンク色が似合わないままでいて。