バレンタインといえば、結婚した今となっては義務感を感じるようになってしまったが、初めてできた1番好きだった彼氏とのバレンタインがいちばん甘酸っぱい青春時代へとわたしを連れて行ってくれる。

吹奏楽部の後輩。可愛すぎる彼氏にシンプルな生チョコを

今から9年前。高校3年生だった。
初めてできた彼氏は吹奏楽部の同じパートの後輩。校則が厳しく、恋愛禁止で部活も忙しく、デートどころか一緒に帰る事すら出来なかった。
学年も違うけれど学校生活の大半が部活だったために、一緒にいた時間は長かった。パートの人達にも内緒にしていたので学校では先輩後輩の関係を装っていた。

目が合えばお互い笑い合う事がたまらなく好きだった。
ちょっとぎこちなくなる敬語も可笑しくて可愛くてたまらない。家に帰れば彼氏と彼女になってメールや電話で会話を楽しんだ。パートリーダーが指示して偶然隣になったとき動揺しそうになった!とか、2人でスリルのようなものを楽しんでいたのかもしれない。

バレンタインも2人きりには到底なれないので、バレンタイン当日の部活の帰りに渡す事になった。
「チョコ楽しみにしてる!」と言ってくれたので、張り切ってレシピを色々リサーチしたが中々決まらなかった。考えた結果、時間もかからないシンプルな生チョコに決めた。
ラッピングも何店舗も回って決めたものだった。

配る用は大量に。彼への生チョコは心を込めて作った

人数が本当に多い学校生活だったので、毎年大量に義理チョコや友チョコを作り、配っていた。その年もチョコブラウニーのキットを大量に買って作る予定だった。
気持ちを込めて作りたかったので、彼の分は最後に作る事にした。何回も同じ工程を繰り返し、大量のブラウニーができた。
生チョコは集中して作った。作り方はシンプルなので、ただチョコを刻むだけでも彼の顔を思い出してはキュンキュンしながら作った。

一晩冷やすので次の日の朝に完成させた。
冷やした生チョコを丁寧に切って、かわいい箱に詰め、ハートのピックを添えて専用の袋に保冷剤も入れて完璧な状態で学校に持って行った。満員電車も自転車のガタガタの道も守り切った。
学校に行くと、みんな同じように沢山のチョコの配り合いだった。部活に行くと後輩にもたくさん配った。
ダミーで彼にも渡した。わたしにしか分からないちょっとぎこちない敬語で「ありがとうございますー!」と言って受け取ってくれた。すれ違いざま、小さい声で「後でね」とわたしは言った。彼は小さく頷いた。

「好きすぎる」恋はこのときだけ。思い出に今も苦しくなる

部活が終わった後、わたしは自転車置き場で彼を待った。
適当に誰かと話したりしながら、違和感がないように。
10分くらいすると彼が友達と一緒に出てきた。
その友達(わたしから見ると後輩)はわたしたちのキューピッドだったので、唯一わたしたちの関係を知っている奴だった。わたしの姿を見て、ニヤッと笑ってどこかへ去った。
2人きりとは言えないけれど、何とか渡す事ができた。一瞬だったけど、「ありがとう!帰って食べる!」と言ってまた友達の所へ戻って行った。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
どう言っていいか分からないくらいに嬉しさでいっぱいになった。

その夜、電話で「めっちゃ美味しかった。ありがとな。大好き」と照れながら言ってくれた。「わたしも好きすぎる」と返した。好きすぎると言った恋は、後にも先にもこの恋だけだった。 

結婚は「好きすぎる」という感情だけではやっていけないくらい難しい。
好きと何回言っても足りないくらいにのめり込んだ恋は、今もわたしを苦しめている。