6月、就職活動真っ只中。
落とされるごとに減ってゆく「選考中企業リスト」は、まるでHPがすり減る私そのものだった。こんなはずじゃなかった気もしたけれど、同時にこうなることは明らかだった気もしていた。
アピールは下手だし、自分に自信がない。「この能力を活かして、御社のビジネスに貢献したい」と言った側から、もう一人の自分がささやく。
「本当にそう思っているの?」

就職活動がはじまってみると、気がつけば友人たちとは異なる立ち位置にいた

周りの友人は優秀だった。有名企業の内定を早々に手に入れるのでは飽き足らず、どの企業からも求められ続けている人ばかり。輪をかけて自分の無能さがやるせなくて、私は日に日に部屋の中に塞ぎ込んでは目と耳を閉ざし続けた。

それまでの私は、彼らと同じ立ち位置に立っていたはずだった。勉強もサークルもきちんと努力して結果を出した。アルバイトには一回も遅刻したことがないし、多少の失敗なら「珍しいね」で済まされた。誰に対しても優しくいるように努めて、人に嫌われることはどちらかというと少なかった。就職活動という新しい評価軸が持ち込まれるまで。

同じような日々を過ごしていたはずなのに、いつの間にか私は、合格、不合格の不合格の側に常に振り分けられるようになった。
そんなレッテルを毎日毎日手にしていたら、今の自分はさらにちっぽけで不甲斐ないように思えたし、なのにあくる日もそんな自分の明るい一面だけを最大限に見せなければならないやるせなさに押しつぶされそうだった。

「全てをやり直したい」という思いもあったのか、手に取った本

大好きな著者、朝井リョウの『もういちど生まれる』(幻冬舎文庫)を手に取ったのは、「もういちど生まれる」ことを当時の私が一番願っていたからかもしれない。
何がダメか分からない?いや、むしろ自分の全てがダメなのに、それでもどこかに受かろうとしている自分が一番分からない。もういっそのこと、全てやり直してしまいたい。でも、いつから、どこから?
連作短編5編。ダンサー志望、絵描き、バイター大学生。一見きらきらした日常の狭間で、登場人物一人一人のジュクジュクした内側の感情が溢れ出る。
一番心を打たれた表題作の『もういちど生まれる』は、美人の姉、椿が大嫌いな双子の妹、梢が主人公の話。同じタイミングで生まれたにも関わらず、姉は全てを持っている。面倒なこだわりを持たず、すいすいと日々を過ごしていく椿。対して二浪しながら予備校の先生への叶わぬ恋心を持て余す梢。

「別に椿みたいになりたいわけじゃない。ほんとうは、きっと、椿と同じ、1になりたいわけじゃない。私はずっと、ほんの少しでも、今の私から変わりたいだけだった」
就活ノートの隅に、無意識に書き出していた言葉がこれだった。
あの子がもらった企業からの内定が欲しいわけではない。あの子の話術や見た目が欲しいわけでもない。今のこの、恥ずかしくて、みじめで、みっともない私から少しでも脱却したい。それだけだった。そんな自分に気がついたこともまたさらに恥ずかしくて、でもなんだか心のつかえが取れたような気がした。

みっともない自分を認め、「変わりたい」自分を手放さなくなった

それからの就職活動もまた、みっともなくて、恥ずかしかった。
就活を終えた友人に片っ端から面接の練習をしてもらった。友人経由で就活アドバイザーにも相談した。親の前でも泣いた。「情けない、本当に申し訳ない」と色んな人に何度も言った。その度に、「大丈夫だよ」「心配してないよ」と言葉で支えてもらった。
変わりたい。その気持ちを手放さなくなった。

変わりたい自分って、恥ずかしい。周りのみんなは、変わった後に見える。けれど、本はそんな自分の姿を映してくれる。寄り添ってくれる。
周りの子は変わらず私にとって、完全完璧の1のような子ばかりだ。それは変わらないけれど、0に限りなく近い私は今日も自分だけの1を育てるべく、変わり続ける。みっともない私を抱えながら。