読書が苦手だった私は、大学で「本」への興味を持った
私は大学3年生まで、本を読むのが苦手だった。小学校や中学校時代は、1時間目が始まる前の毎日15分間「読書の時間」があったが、あまり集中できなかった。友人に相談してみると「自分の興味のあるジャンルを選んだら、読み進めやすいと思うよ」とアドバイスをくれた。
また、「読書は心の栄養」と学校で教えられたものの、当時は読書自体に拒絶反応を起こしていたため、読書好きな友人が羨ましかった。
大学生になり、卒業論文の参考文献漁りを始めた。同時に、参考文献とは別で、他にも面白そうな本があれば読んでみたい、という気持ちが芽生えた。
時間がある時は図書館のお薦めコーナーを覗き、過去に「王様のブランチ」のブックコーナーで紹介されていて本のタイトルや著者名を聞いたことのあるものを探して読み始めた。
中でも、特に気に入ったのが西加奈子さんが書いた本だ。西さんの、他の作家とは異なる独特な世界観に魅了された。最も印象的な作品は『漁港の肉子ちゃん』である。
身近なテーマだからこそ、色々な解釈でメッセージを受け取れる作品
この作品は、血の繋がりがない母娘の絆や地域の人々との触れ合いの物語だ。感情移入がしやすく「家族の形」はそれぞれだと教えてくれる。
タイトルにある「肉子ちゃん」は、育ての親の愛称であり、漁港のお肉屋さんで働いている見た目がふっくらした人だ。また、主人公の産みの親の良き心の友であり、人柄が良く好感を持たれやすいが騙されやすい面もあり、どこか憎めない存在だ。
そして広くて深い愛で主人公を包み込み、本当の親子以上の絆を結ぶのだ。主人公は、自身と肉子ちゃんとの見た目のギャップなどから幼い頃から「産みの親は他にいる」と鋭く勘繰り、大人な対応をするものの、周囲から「子どもらしく甘えて、本音を言って良い」ことを学ぶ。
私自身の親が離婚して、誰しもが通る幼少時代を描いている点に共感を覚えたことが、読みやすく感じる理由だろう。家族、友人、地域、成長、絆、愛など、様々な身近にあるテーマを拾って提示しており、読者ごとに色々な解釈で、メッセージを受け取ることができる素敵な作品で、皆さんに推薦したい。
役の台詞のため7年ぶりに読んだ本は、挑戦する勇気をくれた
この「漁港の肉子ちゃん」は、2021年にアニメーション映画化されて全国放映された。映画化に際して明石家さんまさんがプロデュースを務め、主人公の同級生の女の子役の声優オーディションが、プロアマ問わず開催された。
募集を発見した時「さんまさんを始め、色んな人がこの作品を推薦してくれて嬉しい。映画化でもっとこの作品が世の中に愛されてほしい」と率直に感じた。そして、大好きな作品の世界に入るチャンスを掴みたいと思い、オーディションに応募した。
結果は書類審査で敗退。だが後悔はない。
書類選考の際、募集された役である同級生マリアちゃんの台詞を幾つか音声データで送る必要があった。短い台詞だからこそ、色んなパターンがあり得ると思い、思い付く限り試した。声色や息遣い、スピード、間など、日々試行錯誤した。
また、提出課題である台詞は数行だが、一つ一つの台詞の背景にはどんな物語があったのか。自然と気になり始め、改めて図書館で本を借りて読み直した。
初めは一冊丸ごとを読み、その後はマリアちゃんが登場する場面を中心に何回も読んだ。
7年振りに読むと「いつ読んでも読みやすく、再びこの作品に触れることができて幸せだ」と感じた。本を読み直すことで、その役の立場や感情をより理解でき、納得がいくまで撮り直して応募できた。
私は「漁港の肉子ちゃん」に出会い、読書の楽しさや挑戦する勇気を貰った。作者である西加奈子さんのファンになり「好きな作家さんは西加奈子さんです」と胸を張って主張できるようになった。
今後も「漁港の肉子ちゃん」との出会いに感謝し、西さんワールドにどっぷり浸かりたい。また、まだ見ぬ素晴らしい本達に出会うべく、一冊でも多くの本を手に取りたい。