高校生の頃、私はとんでもなく奥手だった。好きな人とまともに話せず、目が合えば反らしてしまう。自分に自信がなかったし、私なんかが好意を寄せたら迷惑だろう、と考えるようなネガティブな女だった。
彼が好きなことを悟られないよう、友達にも言わない静かな片思い
見た目も美人とか特別かわいい訳でもないので、待っているだけではもちろん彼氏などできない。でも好きな人はいて日々の原動力になっていた。
高校に入って初めて好きになったのは同じクラスの男子だった。強豪で有名な吹奏楽部に入っていて、頭もよくスポーツもそこそこ。誰とでも楽しく関われる人だった。なんで好きになったのか、ささいなことだったと思うが好きな漫画の話とかで盛り上がったときの笑顔がいいなと思った。
私は彼が好きということを周りに悟られないように、仲良しの友達にさえ言わずに静かに片思いしていた。「念」が強かったのか、私は彼の隣の席になんと5回も連続でなったのだ。もちろん小細工はしてない。「また隣だね」と笑い合ったが、至って冷静を保った。心のなかはガッツポーズ。5回も隣だと慣れてくるもので数学のノートを見せたり、暇な授業のとき絵しりとりをしたりしていた。
友チョコを用意しているときに彼の顔が頭をよぎり、多めにラッピング
そして季節はバレンタインの時期となった。
友達同士で、手作りの友チョコを作ろうという話になり、実家にオーブンがなかった私は炊飯器で出来るチョコレートケーキを調べ、試作も一応して作った。炊飯器なので1ホール出来てしまい、家族にあげてもまだ余った。
学校に持っていく分を用意しているときに、ふと彼の顔が頭をよぎる。友チョコとしてなら渡せる……?でもさすがに手作りはないだろう。でも、もしかしたら余ったからって渡せるかも……私は多めにケーキをラッピングして学校へ持っていった。
翌日、いつもの友達同士で交換。お昼にそれぞれたべる。「おいしい~!」と友達に言ってもらえてほっとする。女子はほとんど手作りで、友チョコをあげる子や他のクラスの彼氏に渡しに行く子など様々だった。
ふと彼の姿を探すも、見当たらない。嫌な予感がした。いないということは、誰かに呼ばれてチョコ貰ってたりして……私は不安になっていた。こんなに不安になるくらいなら、早くアピールすればいいのにと思うのだが現実はそうはいかない。遠くから見てるだけでいいや、と失敗を恐れて努力することをしなかった。
まもなくして彼が戻ってきて、いつも通りだったのでそれ以上気にせず授業が始まった。
カバンの中に入ったチョコレートケーキは、もうついででも渡せない
放課後になり、友達と帰り支度をしているときにふとチョコケーキのことを思い出す。帰り際に渡したいけど、周りに人もいるし変に思われるよね……と悩んでいるとき、クラスに下級生が現れ彼が呼ばれた。一緒に帰るようだ。
え、女の子……告白???と困惑していると、友達が現れ「あ、あの子部活の後輩の子だ~最近付き合ったらしいね~」と教えてくれた。
「あ……そうなんだ、へ~」
平静を保つのに必死だった。
片思いしているのを友達にも伝えてなかったのだから仕方ない。誰にも知られることなく、何もせず、私の恋は終わってしまった。
カバンの中に入ったチョコレートケーキは、もうついででも渡せない。家について、夕食のあとケーキは自分で食べた。
ケーキを食べながら、次に恋をしたら絶対に自分から行動しようと決意した。好きな思いに気づいて貰えないと、何も思ってないのと同じことだ。
自分の気持ちを伝えよう、と喪失感と共に最後のケーキを飲み込んだ。