今の私を作った本は、「エロスのお作法」だ。
誤解のないよう先に申し上げておくと、この本で私が考えさせられたのは自分自身の過去や「女性性」との向き合い方だ。
男性を喜ばせるための「作法」を丁寧に記した、刺激的な本
この本は男性を喜ばせるための「作法」を教えてくれている。「見た目のお作法」から始まり、「言葉のお作法」「デートのお作法」なんと「ベッドのお作法」まで記されている。
著者は忙しい現代女性のために、少しだけ「気持ち」や「視点」を変えるきっかけになればとの想いで本著書を書かれたらしい。丁寧な文面からもそのお気持ちはなんとなく感じられたが、読んだ当時はとても刺激的な本だと感じた。
著書の中では作者の恋愛経験も記されており、他人の秘め事を知ってしまっていいのかとソワソワしながら読み進めた記憶がある。そのような刺激的な本作品で私が一番心に残ったのは「男性を立てつつ、女性が人生を楽しむ方法はたくさんあるはず」という一節だ。
実はこの本の著者はタレントの壇蜜さんである。
各種メディアでご活躍されており、ほとんどの方が彼女のことをご存知だろう。上品なルックスや雰囲気を持ちつつ、写真や映画では驚くほど大胆だ。多くの男性達が彼女に憧れたであろうが、かくいう私も壇蜜さんに興味を持ちたまたま書店で目に入った本書を手に取ったのだった。
「グラビア」という仕事を通じて女性性を表現している方が、何を考え、何を想ってその仕事をしているのか知りたかった。なぜなら当時の私は自分自身が「女性」であることを受け入れられなかったからだ。
「女」であることは損だと、苛立つきっかけを作った初めての恋人
日々の生活の中で「女」であるという理由だけで損をしていることが多すぎると感じていた。
性被害に遭うのは多くの場合女性だし、毎月の月経で体調を崩すのも辛い。「女に学歴は不要、嫁ぐことが女の幸せ」といった親世代の考え方や「付き合う経験の少ない女の子がいい」といった一部の男性方の考え方など、とにかくなにもかもに苛立っていた。
きっかけは初めてできた恋人だ。
20歳の頃に初めてできた恋人から、いわゆるデートDVを受けた。初体験は交際相手ではない男性だったという私の経験に衝撃を受けた恋人は、一晩身体を好きにさせろと言った。
今の私ならそんな人はやめておけと思うが、若かりし自分はひと回り年上で社会人経験も豊富な恋人の言うことに素直にしたがった。
内容は一般的な性行為だが、最中に写真を撮影された。この時は悲しいとか辛いなどという感情はなく、人形のように無感情だった。ただ、恋人が満足そうな様子だったことは覚えている。
この恋人とは半年足らずでお別れした。「やはり君の事は信用できない」とのことだ。それだけならまだしも、別れた理由について「仕事と私とどっちが大事なのかと聞かれ、そのような考え方をする人とは一緒になれないと思い別れた」と説明したらしい。私達を引き合わせてくれた共有の知人から聞いた。
男など、自分の面子と欲望の為なら平気で嘘をつくのかと、その時は思った。
男性は「かわいい」存在。そこにあるのは圧倒的な母性と勇気
「エロスのお作法」の中では、男性は「かわいい」存在として書かれている。決して男性を馬鹿にしているわけでも見下しているわけではない。私はこの本を読んで感じたのは圧倒的な母性、それとたかが一人の男の意見など気にすることはないという勇気だった。
私は過去の恋人のエピソードを人に話せるようになるまで2年半程かかった。たまに本を開き、丁寧な文面と赤裸々な内容のギャップを楽しみながら、少しずつ自分の経験を受け入れていけた。
初めて読んだ時には刺激的に感じた本だが、経験を積んだ今ではすっかり慣れてしまった。もちろん元恋人についても振り切れている。
あの頃には絶望のどん底にいた気分だったけど、今ではこうして文章に表現できるようになった。壇蜜さんがデビューしたのは29歳。ちょうど同じ歳に自分の経験を文章にできた事はとても嬉しい。