今の私を作った本、というより、テーマと少しそれてしまうかもしれないが、自分の気持ちに気付かせてくれた本の話を書いていこうと思う。

雄っぱいが好き。私を受け入れてくれる世界に出会い、歓喜に震えた

私は、男性同士の恋愛を題材としたBLというジャンルが好きだ。日々新しい作品を開拓していく中で、「~おっぱぶクラウン~ 王様の遊技場」(栗城偲著、プラチナ文庫)という小説に出会った。
この作品は、男性のおっぱいすなわち「雄っぱい」が好きな同志が意気投合して、男性専用のおっぱいパブを経営するオーナーの長谷と店長の室山の話だ。

この作品を読んだとき、私は歓喜に震えた。フィクションだけれど、こんなお店があるんだ。
確かに私は、胸のビジュアル重視でBL作品を選んでいる節がある。だが、雄っぱぶもののに出会ったのはその時が初めてで、衝撃が走った。
それから私は、雄っぱぶものの作品を追い求めるようになった。
どうして、私は雄っぱぶものにこんなにも惹かれるのだろうか。
これは全て私の解釈なのだけれど、きっとそれは、雄っぱぶが「自分の好きに素直になれる場所」だったことが大きいのだと思う。
私は、雄っぱいが好きだ。なかなかニッチな性癖だと自覚している。そんななか、自分の好きな性癖を扱うお店に出会えたのだ。そして、その好きを受け入れてくれる。なんとも有難い。
自分の好きに素直になれる、そんなところに私は惹かれたのだと思う。

職場でどんな会話をし、どんなキャラで過ごせばいいのかわからない 

そのことに気付いたのは、この本に出会ってから、6年くらい経った頃だった。
その頃の私は、初めて入社した会社で社会人としてどう生きたらいいのか、迷いに迷っていた。それまでの私は、アニメやゲームや漫画が好きで、BLが好きで、それを友達にも公言していたし、その話で盛り上がって楽しい毎日を過ごしていた。
だから、普通の一般の会話というのが分からなかった。仕事でお客様と接する中で、どんな話題を振ったらいいか分からなかった。
普通とは、なんなのか。
職場の仲間とも、何の話をしたらいいか分からない。私はどんなキャラで、どんなポジションで、この職場で過ごしたらいいのだろう。いままでの、過ごし方が通じない。
普通を目指すうちに私は、オタクであることを恥ずかしいと思うようになっていた。そして、周りとの会話を合わせるために、結婚したい女のふりをした。
やがて私は、体調を崩して、その会社を辞めた。

私が求める場所と雄っぱぶは、同じ「自分に素直になれる場所」

会社を辞めてから、職業訓練校に通った。
そこで、事業計画書を作ってみてプレゼンをする発表会があった。
自分がもし、お店をやるとしたら、どんなお店がいいだろう。
私は考えた。楽しかった。
おすすめの漫画を置いて、できたらワークショップとか交流会もできるようにしたい。交流ノートとかも置いて、好きなもの、好きなことに素直になれるような、そんなお店が作れたら、楽しいだろう。
私は気が付いた。
私が計画しているお店のテーマと、雄っぱぶものに感じていることが同じだった。
「自分に素直になれる場所」私はそんな場所を求めているのだ。
おっぱぶクラウンと出会ってから、もう数年もたった頃、私はやっとそのことに気が付いた。

じわじわ、じわじわ、今になって効いてくるとは思っていなかった。
あるいは、私が自分に素直になれる場所にいたから、気づかなかったのかもしれない。
いつの間にか自分を偽ってしまっていたけれど、私は、おっぱぶクラウンと出会ったころから、自分に素直に生きていたかったのだ。
私は、結婚したい女のふりを辞めた。
そうしたら、少しだけ息をするのが楽になった。肩の荷が下りたのだ。
普通は、いまだに求めてしまうし、気になってしまうこともあるけれど、どこにあるかも分からない普通を求めなくてもまあいいかと、思える日も増えてきたのであった。