バレンタインに女性から男性にチョコを渡すのは日本と韓国くらいで、国ごとにその習慣は違うらしい。
大学生になって初めてできた外国人彼氏は、香港人だった。香港でバレンタインとは男性から女性に花束を送る日だと、彼と知り合って初めて知った。

出会いはバス停。不安と焦りを感じていた私に、彼は話しかけてくれた

当時、私は1年間の交換留学をするためオーストラリアにいた。学校に通い始めてまだ間もない頃、私は彼に出会った。学校へ向かうためバスを待っていたある日、目的のバスが向こうから近づいてきて、私の目の前を通り過ぎて行ったのだ。
遠のいて行くバスを見つめながら、なぜバス停に人が立っているのにバスが止まらなかったのかを考えつつ、遅刻する不安と焦りを感じていた。
「あの、普段あのバスに乗って登校していますか?」
そんな時声をかけてくれたのが彼だった。
「はい、あのバスに乗らないと遅刻なんですけど……」
不安そうな私をよそに彼はにっこりしながら答えた。
「大丈夫ですよ。バスが遅れたと言えば許してもらえます。次のバスに乗りましょう。留学生ですか?」
そうして、私と彼は校内で何度か遭遇するたび、次第に仲良くなっていった(そして本当に、バスが遅れたと話すと学校側から何のお咎めもなかった!これぞ文化の違い!)。課題が難しくて図書館でヒーヒー言っていると、さっと現れて手伝ってくれた。帰りが遅くなると家まで送ってくれ、そうなると、恋人、そう、彼のガールフレンドになるのに時間はかからなかった。

隣に彼はいなくても、甘いサプライズが待っていた初のバレンタイン

そんな彼と初めて迎えたバレンタインの日、私の隣に彼はいなかった。学校が長期休暇に入ったため、彼は故郷へ一時帰国していたのだ。
バレンタインを彼氏と楽しむ友達のSNSを見ながら、彼女を置いて帰りやがったな……と心の中でつぶやいていた時、インターホンがなった。ドアを開けると知らない人が立っていて、「僕は君の彼氏の友達で、彼に頼まれてこれを渡しに来たんだ」と言うと、赤いバラの小さな花束を見せた。私にとって人生で初めての、男の人から貰った花束だった。
すぐさま彼に連絡すると、彼は「サプラーイズ!それ、ヨーロッパから輸入した花だから高いよ!」と一言余計に喜んでいた。彼は私より甘党で、でも甘い言葉は苦手だった。それでも、彼の気持ちは花束を通して感じることができた。

彼との2度目のバレンタインは日本で一緒に過ごした。私の留学はとっくに終わっていて、帰国してからこの時まで、彼とは一度も会えていなかった。
いわゆる遠距離恋愛。それでも、彼は私に会いに日本まで来てくれて、私はそれだけで嬉しくて、とっても甘いカップケーキを準備した(料理上手な彼が留学中、唯一ほめてくれたのが手作りのケーキだった。それが嬉しくて、毎日のようにケーキを焼いたのを覚えている)。
バレンタインの日、夕飯を外で済ませ歩いていると、彼は「ちょっと」と花屋の前で立ち止まり、ラッピングされたバラ一輪を手に取って「はい、プレゼント」と買ってくれた。私はそのバラを体の正面で両手で握って、見せびらかすように、すれ違う人たちに心の中で自慢しながら家まで帰った。

彼の浮気が発覚し破局。国際恋愛はいつか散る花のように管理が難しい

彼が去って1ヵ月ほどしたある日、彼と同じ大学に通う友達から連絡が来た。
「あんたの彼氏が他の女と腕組んで歩いてるとこ見たよ」
ご丁寧に、証拠写真まで送ってくれていた。彼はあっさり認め、結局、私たちはもう二度と会うことはなくなった。
彼はきっと最後の思い出として日本にやってきたのだろう。幼かった私は、国際恋愛が困難だなんて思ってもみなかった。遠距離という壁は、乗り越えられると信じていた。信じたかった。
でも、彼がくれた花束のように、どんなに上手に管理しようとしても、少しでも長く、きれいに咲かせておこうと努力しても、いつか花びらは散ってしまうのだ。

今ではもう、彼との出来事はほとんど忘れてしまったけど、いつだったか、私が彼に尋ねたことがある。
「私って、将来結婚とかできるのかな?」
彼は答えた。
「できるよ。君はバカで可愛いから」
私はその言葉に何か意味があるのだと、意味があると思い込みたくて、バカみたいに期待して、そしてバカを見た。だけどバカだから、私は今でもその言葉を信じている。バレンタインに、花束じゃなく愛をくれる人。そんな人を見つけて、幸せになってやる。
私にとってバレンタインの思い出は、子供が背伸びして食べたチョコレートボンボンみたいに、甘党さんはちょっと苦手な、ビターな味だ。