光ってる。

初めて後ろ姿を見た時そう思った。委員会で見かけた、たぶん隣のクラスの、名前も知らない子。
白く光るその子を見た瞬間、音が消えた。彼だけが光って見えた。

彼を見つけて1回目のバレンタイン。大量生産する友チョコを、どさくさに紛れて渡せたらラッキーだな、なんてぼんやり考えていた。

だけどその年、記録的な雪が降った。交通網が乱れて、何割かの生徒は学校にたどり着けなかった。警報が出て、臨時休校になった。
50人分はあろう友チョコが宙に浮いた。他の子たちもそうだ。学校で会えた何人かとチョコを交換する。それでも何十人分も余ってしまい、消化不良になる。
そのことを匂わせるLINEをすると、"もし余ってるなら、ちょうだい"と返事が。飛び跳ねるくらい嬉しかった。
今すぐにでも大声で告白したい気持ちを抑えながら打つ。
"もらってくれるならうれしい"

だけど次の瞬間、不安が襲う。挨拶くらいしか話したこともないのに、どうやって渡そうか。相談すると"靴箱に入れといて"と、なんとも味気ない返事。
物足りなさを感じつつも少し安心し、これくらいが丁度いいと自分に言い聞かせながら次の日、彼の靴箱にチョコを入れた。他の子よりも少しだけ多く詰めたものを。

結果は求めない。思い出づくりの奔走開始

2回目のバレンタイン。想いを募らせ拗らせていた私は我慢の限界だった。
寝ても覚めても頭の中にはただ1人。このままでは溺れ死んでしまう。楽になりたい。

1ヶ月以上前から試作を重ねる。友達に味見をしてもらって、感想を聞く。百均をいくつもはしごして、可愛いすぎずシンプルすぎない箱とぴったりのサイズの袋を買う。何種類ものチョコレートとドライフルーツを使って、売り物さながらに仕上げた。
自分がこの物語の主人公になったみたいで、気分が良かった。
結果はなんとなくわかっていたけど、気づかないふりをしていた。私が好きでいる間に2人の女の子と思いを通わせていたことも、考えないようにした。

形だけでよかった。一目惚れして片想いしていた子に贈り物をする。文字だけで見れば美しい思い出を作りたかった。
例えば文化祭で友達とお揃いの髪型にするだとか、体育祭のリレーメンバーで写真を撮るだとか、そういう王道の思い出が欲しかった。だから決行場所もベタな放課後の駐輪場にした。

思い出に残るのは、優しくて賢かった彼

言葉は自然に頭に浮かんできた。なんて言ったか今でもはっきり覚えている。ちゃんと目を見て言えなかったことも。

優しくて賢い子だったから、返事は持ち帰ると言った。他の男の子たちに言いふらしたりしないことも約束してくれた。
味の感想だけはくれなかった。返事は1日か2日くらい後だったと思う。
熟考したかのような誠実な後味。優しくて賢い人だ。お返しも1ヶ月後という徹底っぷり。

"思い出ができた"ではなく"思い出を作った"バレンタイン。どんどん遠い記憶になって、脳裏に焼き付いたあの子の光ももうすぐ消える。
光って見えたというおとぎばなしは、私だけが知っている。