2年前の3月。私に5歳年下の彼氏ができた。
あれはちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃だった。当時26歳だった私は、結婚ラッシュの真っ只中にいた。

「結婚願望」が先走り、純粋に恋愛を楽しめなくなっていた頃、私の2歳下の妹が結婚をした。三姉妹の長女である私は心のどこかで「親のために早く結婚しないと」「孫を見せてあげないと」と知らず知らずのうちにプレッシャーを感じていたようで、妹の結婚で自分でもびっくりするほど生きやすくなり、肩の力がどっと抜けた。

だれかのための結婚を考える必要がなくなったとき、出会った年下の彼

私の結婚願望は、私のためではなく、親と世間体のためのものだったのだ。そんな頃出会ったのが、その5歳下の彼だった。
とにかく結婚がしたかった私のままだったら、当時21歳でガキっぽい彼など眼中になかっただろう。でも、結婚を考えずに純粋に恋愛を楽しみたいと思うようになっていた私にとってはぴったりの彼だった。
シェフ見習いとして働いていた彼は、お弁当をよく作ってきてくれた。彼が作るサンドイッチやオムライスの味は格別だった。
くしゃっと笑う顔が可愛くて、この子の笑顔を守りたいと、見事に母性をくすぐられた。仕方なく結婚のために付き合っていた彼氏たちとは比べ物にならないくらい、心から大好きになれた人だった。

そんな彼との時間が有限だなんて疑う余地もないくらい幸せに溺れていた。付き合って1ヶ月が経った頃、彼から「話がある」と電話があった。
嫌な予感はしていたが、待ち受けていたのは予想を遥かに上回る地獄だった。
「元カノが俺の子を妊娠した。ヨリを戻していっしょに育てたいと言われている。明日向こうの両親と会う」と。

何が起こっているのか分からない状態。そして乗り越えたと思ったが…

頭が真っ白になった。
ついこの前、一緒に住む家を探してたじゃないか。この先もずっと一緒にいようって抱きしめあったじゃないか。
何が起こってるのかよく分からなかった。私と付き合う直前まで体の関係が続いており、その時に孕んだらしかった。
自分の幸せと赤ちゃんの命を天秤にかけているような、そんな気持ちで悶々とする日々を過ごした。尊い命が生まれたことをこんなにも憎く思う自分が悲しく、自分が悪魔のように思えて壊れそうだった。
話し合いの末、元カノに養育費を払いつつ、私と一緒にいるという選択をしてくれた彼。大きな壁を乗り越えたかのように思えたが数ヶ月後、「なんか冷めた」という理由であっさり振られた。

知らないところで幸せな家庭を築く彼。生きている意味がわからなかった私

結局、元カノとヨリを戻したという話を風の噂で聞いた。
当時の私はもうボロボロだった。
婚活で疲れ切っていた私を心の底から癒してくれていた大切な彼を失い、彼は私の知らないところで他の誰かと幸せな家庭を築く。
あのくしゃっとした笑顔がこれからは私じゃない誰かに向けられて、あの愛情たっぷりの料理も私じゃない誰かのために作るんだよなと考えるたび、息が苦しくなった。比喩でも何でもなく本当に胸が痛み、呼吸が浅くなり苦しかった。
あの頃は「誰か助けて」と切実に心から願った。誰でもいいから私をこの闇から救い出してほしい。お願いだから1人にしないでほしい。

自他共に認めるポジティブ人間のわたしが、あの頃は本当に生きている意味が分からなかった。「死にたい」「消えたい」と弱音を吐く私をいつも受け止めてくれた友人、家族。人は1人では絶対に生きていけない。あの時辛くても生きることを諦めなくて良かったと心から思う。手を差し伸べてくれた人たちのおかげで今の私がある。

私はこの秋、結婚する。とても大切な人に出会うことができたのは、あの時一人で抱え込まずに思いっきり頼ってなんとか生き延びることができたから。今度はわたしが誰かを支える番だ。