社会人になってから、バレンタインというイベントをどのように捉えていいのか分からなくなった。
学生のように心躍るイベントと感じるのは少々難しい。学校中が甘い香りに包まれて、楽しそうにチョコを交換したり大好きな人に勇気をだしてチョコを渡したり、まさにバレンタインは青春の1ページだった。
入社してすぐのバレンタインは、お互い相手の事を知らないから難しい
社会人になってからは、どこか業務的な香りを漂わせていた。「渡したい」というよりかは「渡さなくては」と、どこか義務的な気もちが心に浮かんでしまう。
それでも職場の人にはお世話になったことも確かだったから、感謝の気持ちを込めて毎年チョコを渡していた。
しかし今勤めている会社は、入社したのが去年の1月の終わりだった。
入社して数週間しか経っていないバレンタインは、なんとも気まずい。まだよく知らない相手からチョコを貰っても相手の人は戸惑ってしまうし、そもそもこちらも相手のことをよく知らないでチョコを渡す気にもなれない。
仮に渡したとしても、受け取った側はお返しをしないといけないと気を遣わせてしまいそうで、なんだか渡すのが申し訳なくなってしまう。しかもホワイトデーはバレンタインで渡した物の倍以上で返ってくることが多い。
だから私はなるべく個別ではなく全体に向けてチョコを用意し、気を遣わなくて済むようにした。
誰に渡したらいいのか考えた時、一人だけ渡そうかどうか迷った人
ただ、入社して間もない私を気にかけて話しかけて下さる人が何人かいた。その人たちには心ばかりではあったが、個別にチョコを用意した。
渡す人を思い出している時、一人だけ渡そうかどうか迷った人がいた。
2つ年上の菊田さん。本当に一度くらいしか挨拶をしていない人、でも知らないわけではない。私の上司と菊田さんがとても仲がよく、私のことを紹介してくれた。
面識はある。しかも菊田さんといつも一緒にいる私より1つ上の真野さんには渡すと決めていたから、菊田さんに渡さないのは失礼かもしれない、
でも明るく元気な真野さんと違って菊田さんはクールでちょっと怖い印象だったから、渡したら迷惑になるのでは……とさんざん悩んだ結果、渡すのを辞めた。万が一のことを考えて余分に用意していたけれど、結局渡さなかった。
ホワイトデーの日の朝、菊田さんとすれ違った。
「おはようございます」と挨拶をしただけ。普段はべつの部署にいるのに、なぜこの時間にいるのだろう?その時はただ珍しいなと思っただけだった。
しかし私の机にはお菓子の箱が置いてあり、付箋に菊田さんの名前が書いてあった。私にむけて「これからも元気に」とメッセージを付けてくれていた。
ホワイトデーはお返しの日だと思っていた私に、待っていたサプライズ
私はチョコを渡していないのに……と、その時すごく申し訳ない気持ちになった。
私の上司の机にも菊田さんからのお菓子が置いてあったから、もしかしたら私に渡さないことに気が引けたのかもしれない。でもホワイトデーはバレンタインのお返しの日だとばかり思っていた。
正直クールな菊田さんからこのようなサプライズがあるとは思わず、びっくりしてしまった。クールな人だと思っていたけど、もしかしたらバレンタインにチョコを渡したら「ありがとう」と受け取ってくれたのかもしれない。まだまだ私は菊田さんのことを知らないだけなのかもしれない。
そのように考え始めると、迷わずに渡せばよかったと後悔した。
それからも菊田さんは出張に行ったからとお菓子を買ってきてくれたり、私の誕生日にコンビニでケーキを買ってくれたり、仕事のことを気にして連絡をしてくれたりと、とても優しい人だった。あのホワイトデーの時に感じた優しさはそのままだった。
そしてもうすぐバレンタイン。今年こそは迷わず菊田さんにチョコを渡す。
この1年間の感謝の気持ちを伝えよう、大好きな気持ちを伝えよう、彼氏になった菊田さんに。