心底嫌だったのに思わず頷いてしまい、後の祭り
今年こそ自分の口から、「やりません」と宣言するはずだったのに。
呪われし因習、義理チョコ。
前の部署にいた時から、その風習があった。
女性社員がお金を出し合って、部長・副部長にチョコを渡す。そして同じチームの男性達にチョコを配る。
先輩女性達が当然やるものという風に接してきたから、私も波風を立てたくなくて、従った。
費用は5000円以上かかった。心底嫌だった。
その翌年、新しい部署に異動になった。女性職員は私1人。義理チョコの支配から卒業できると意気揚々としていたら、ベテランの一回り以上年上の派遣社員の女性達が「やらない?」と持ちかけてきた。
そのとき断ればよかったのに、自己主張ができなかった入社4年目の私は、思わず頷いてしまった。
頷いてしまってからは精神的に荒れて、Twitterで「同じ会社の所属でもない、他社の人がなんでやりたがるの?」と毒を吐いたりしたが、後の祭りだった。
来年こそはと思っていたのにコロナが。自分でNOと言いたかった
ホワイトデーには、バレンタインを企画した派遣社員が男性社員全員の席にお礼に回っていて、ホステスみたいだな……と思ってしまう自分がいた。
ホステスを悪く思っているわけではなく、接待をする仕事をしているわけではないのに、無料で接待しているのが違和感があるのだ。無料どころか、自費でチョコレートを買っている。
ホワイトデーにお返しはもらったが、男性社員が圧倒的に多い部署のため、こっちは3人で30人分を準備、割り勘。向こうは3人分を30人で割り勘だ。
あまりにも不公平すぎる。
なぜ、自腹を切ってまで、男性職員に業務外のイベントを提供する必要があるのか?(しかも、女性側のほうが給与が低い)
感謝の気持ちを伝える日、と体良く言うが、なぜ女性社員が男性社員に一方的に感謝しなければならないのか?感謝するのは、お互い様だろうに。
あまりにも気分が悪かったので、絶対に来年からは断ろうと決意した。
その矢先、コロナになった。
在宅勤務が増え、外出も人との接触も避けるように言われ、さすがに誰もバレンタインのことを言い出さなくなった。
ラッキーと言えばラッキーだろうが、私は後悔していた。
何としても、自分の口でNOと言いたかったのだ。やりたい人が自由にやるようにしましょうよ、と言いたかった。なんなら、「私は夫にしかあげたくないんです(笑)」くらいのことも言うつもりだったのに。
女性の後輩社員に「どうすべき?」と聞かれ、やっと言えた
コロナの最中、4月に新入社員の女性が入社してきた。初めての女性の後輩で、とても嬉しかった。
2022年を迎え、1月も終わろうとしている頃、彼女が、「瀬川さん……」と相談に来た。
「バレンタインってどうすべきなんでしょう?」
今こそ伝えるべき時が来た、と思った。
「やりたいなら、やってもいいと思うよ。でも、私はもうやらないって決めてて。昔、嫌って言えなくて後悔したの。お互いに感謝して贈り合うならともかく、女性から男性に一方的に渡すって、違和感があって。しかも5000円も取られて、貴重な休みの日に買い出しに行って。5000円もあったら、飲み会にも行ける額だし……」
感情が入りすぎて愚痴っぽくなってしまったが、彼女はほっとした顔をしていた。
「よかったです……。渡す相手が多すぎるって思ってました。それに確かに、女性から一方的に感謝って、変ですね」
彼女の安心した表情を見て、私もほっとした。
本当に、やりたい人だけが個人でやればいいのだ。
交際しているときはチョコレートケーキを作ったりもしたが、夫はそこまで甘い物が好きではないので、去年のバレンタインは、スニーカーを買ってあげた。
今年はコートをリクエストされているから、二人で買いに行って選ぶのが楽しみだ。
あと、弟はチョコレートが好物なので、タイミングが合えば渡したい。
とにかく自由に、自分の心が赴くままに、このイベントを楽しみたい。
百貨店に行って、可愛いチョコレートがあれば、自分と、あと後輩女子のために買おうかなと考えている。