奥手な彼から渡された紙。デートを繰り返したけれど告白は？

奥手な彼はなかなか手強い。
ある日、私が働くカフェにたまにくる男の子から、「いつもありがとうございます。普段のお礼も兼ねてよければ食事でもどうですか?」というメッセージと連絡先が書かれた紙を渡された。
たまに連絡先を貰うことはあるけれど、仕事だからと断っていた。
けれど書かれた文章の誠実さと、何ヶ月かかけて作られた彼のイメージに好感しかなく、私は次の休憩でメッセージを返した。
「こちらこそいつも楽しく会話できて幸せな時間を貰ってます。是非、予定を合わせてお茶でも」

そこから話はとんとん拍子に進み、太陽の下でのお散歩デートや、高架下の立ち飲み屋に行ったり、仕事前に1時間カフェで話したり、色んなデートを5回ほど続けた。
ところが、何もない。
3回目のデートあたりからいつ告白されてもいいようにと心構えはしていたのだけれど、私の誕生日のデートも今日こそは！と、意気込んでいたのだけれど、全くもって告白に至らない。

マイペースな彼に肉食な私はやきもき。私から告白したら負け？

お互い20代後半ということもあり、多少スピードアップしてもいいのでは？と思う私に反して、彼はとてもマイペースで、毎回夜21時には解散し、指一本触れられることもなく、挙句「うち来て飲む？」という誘いも「順番があるから」と断る始末。
基本的に肉食女子かつ、勢い勝負の私はやきもきする日々で、今にも「ねぇ、告白してよ！」と、言いたくなるのだけれど、「今回ばかりはゆっくりと」という周囲のアドバイスもあり、私からは何も言わずにいた。

けれど、あまりにもペースが遅すぎる。
初めて遊んで2ヶ月ほど、デートはもう充分した。
新年の挨拶も、私の誕生日も言葉を交わした。
なのに、どうして？

やきもきした気持ちが段々イライラに変わっていた。
毎日続けるやりとりも、たまに掛ける電話も、この先に何が待っているかわからないのに、このグレーな状況で過ごさなければならないことに。

私から告白しちゃえばいいのではないか。
彼なら100%「うん」と、答えるはずだ。
いや、むしろそれを待っているのかも知れないとすら思った。
けれど、それをしたら負けな気がした。

恋愛は勝ち負けではないけれど、これだけ長い間待ったのに、これだけ皆にも焦るなと言われたのに、ここで私から告白してしまうと一種の敗北な気がした。
けれど、このまま待ち続けて半年ほど連絡を取り合うだけの仲だったら？
そもそも彼自身実は人間として私に興味があるだけで、恋人として見ていなければ？
そんな不安でいっぱいになった。
世の中はバレンタイン前で、カップル達が舞い上がっている。
こんな気持ちでバレンタイン渡すのなんて、義理チョコを渡すみたいだ。
私はとてもじゃないけれど、世の中の女の子達みたいにバレンタインを楽しみに待つことが出来なかった。

「欲しい」と言って欲しくて遠回しな質問。答えは期待はずれで

楽しく電話をしていたある日、
「もうすぐバレンタインだけどさー。チョコレート、いる？」
と私は聞いた。
別にチョコレートをあげたくないわけではない。
そりゃあもちろんあげたいに決まってる。
聞いた時点で、買うチョコレートの候補も３つぐらいに絞っていたのだから。
けれど、彼に言って欲しかったのだ。
チョコレートが欲しいと。私たちの関係は"義理チョコ"ではなく"本命チョコ"を渡す関係なのだと。

私の質問に、
「あーそんな時期だもんね。いいよ、気を遣わなくて」
そう言った。
彼自身が気を遣っての一言だったのかもしれない。
けれど、私はなんだかその一言に気が抜けてしまった。
「気を遣わなくてもいいけど、貰えると嬉しいな」
「カップルのイベントだもんね、せっかくだからどこかで会う？」
心の中でそんな前向きな言葉を期待していた。
けれど、私の期待を見事に裏切り、逆に今までの彼のイメージを裏切ることなく、彼はチョコレートを渡すことを望まなかった。
「んーそっか、了解」
と言い、彼の気持ちに深入りすることなく会話を変え、ひとしきり話し終えたところで電話を切った。

彼の本音はきっと違ったけれど、私はあの質問に全てをかけていた

気持ちが底をついた私は、連絡を取るのが急に億劫になり、そこから返事はだんだんとおざなりになった。それでも会話を続けてくれる彼の様子を見ると、きっとあの一言は、
「チョコレート買おうなんて気を遣ったりしないで」
という意味だったのだと思うし、まだ気持ちの冷めない私の願望的予測なのかもしれない。
けれど、終わりは終わりだ。
タイミングが違ったのよ。
そう言い聞かせ、まだ新しい傷を抱えながら、バレンタインで浮かれるカップルを見守る予定だ。