好きな人に素直になれなくて。ただ見ていたあの人
私はひねくれ者だ。
好きな人に素直になれない。
好きじゃない人には、どれだけでも愛想よくできるのに。
好きな人を前にすると、好きがバレないように、嫌われないようにという感情の板挟みで、顔の表情も、言葉の語彙力も、どこかにいってしまう。
私は高校まで、大好きな人が1人いた。
小学校からずっと同じ学校の腐れ縁。
外見から物静かに見られがちな私を、呼び捨てで呼ぶのも、「じゃぁなっ」って気軽に肩を叩くのも、そいつだけだった。
関係が、壊れてしまうのが怖くて、ずっと何もできなかった。
彼女ができたのも、手を繋いで歩く姿も、別れて寂しそうな姿も、ただ、見ていることしか出来なかった。
告白を決意したバレンタイン。そこで見た光景は
高校3年、進路先が決まり、春からは違う県に住むことがわかった。
このままじゃダメだと思った私は、バレンタインに告白をすることに決めた。
手作りは重すぎるかな……。
チョコはお小遣い以内のチョコは何が買えるかな……。
悩みに悩んだ末、私はその子が大好きだと言っていた、クッキーにチョコがかかったものを作ることに決めた。
バレンタイン当日、いつ渡せばいいのか、なんて言えば伝わるのか、そわそわ、ドキドキしながら、放課後になるのを待った。
彼はいつも放課後友達と少し教室で遊んでから、1人で帰る。
手紙で呼び出すなんて勇気がない私は、偶然を装って、駐輪場で渡す計画を立てていた。
もうそろそろ来るかな……。
そんなふうに考えていると足音が聞こえた。
足音がした方を振り返る。
そこには私の好きな人と、一個下の後輩の女の子。
手を繋いで歩く姿に、こんなことって現実に起こるんだなんて、頭は冷静に考えていた。
できるだけ、不自然にならないように、私はすぐにその場から自転車で走り去った。
次の日聞いた話では、後輩の女の子の方から告白して、付き合ったようだった。
自分で作ったチョコレートは自分で食べた。
涙というよりは、どうして私は勇気が出ないんだろうという感情で、乾いた笑いと共に食べたチョコレートの味はよくわからなかった。
傷ついても自分の口で伝えれば良かった。毎年後悔が舞い戻る
私は、次の日こっそり下駄箱に、彼が大好きだと言っていた、一箱のチョコレートのお菓子に、"大好きでした"の文字だけを書き、いれた。
ただの自己満足になってしまったけれど。
6年間何も出来ず、見ているだけだった私は、なんとなく、一歩進めたような気がした。
私の長かった初恋は、直接伝える勇気がないまま終わってしまった。
今、大人になって思うのは、傷ついてもいいから、自分の口で直接伝えればよかったという後悔。
中学生、高校生のうちに、好きという言葉をたくさん、たくさん伝えておけばよかったという後悔。
毎年、バレンタインになると、お菓子売り場を通るたび、その時の感情が舞い戻ってくる。
次の恋では、思っているだけじゃ伝わらないことは十分わかったから、好きな人には1番素直になりたい、好きと思ったら、すぐに伝えられるくらいの勇気をもちたいと、そう思っている。
バレンタインでの思い出は、苦い思い出だったが、その苦い思い出があったからこそ、今その瞬間の感情を大切に生きていけているのかと思うと、あの時の自分に頑張ったねと、声をかけてあげたい。
自分に自信がもてず、でも、だけど、が口癖だった私。
そんな私を少しだけ変えてくれた、バレンタインの苦い思い出。
いつか、バレンタインの甘い思い出も、話せるようになるといいな。