バレンタインデー。
なんだか心が躍るあの日。
小学生の頃は、チョコレートを何種類か溶かして型に流し込む、あのチョコを作っていた。
中学3年生の夏、恋をした。
でもその相手は、恋をしてはいけない人。
そう、学校の先生だったのだ。
その思いは誰にも言えず、新しい恋を探そう、と思った。
もちろん、中学3年生の時は、チョコレートは男の人の手に渡ることはなかった。
高校1年生の時、学園祭で先輩に恋。専用のラッピングで包んだチョコ
学園祭のシーズン。準備に慌ただしくなる学校。
そこで私はキラキラ輝く先輩を見つけた。
サラサラの黒髪に、ニコッと笑うと目尻にできるシワ。
「あ、好きかも」
この気持ちを大事にしようと思った。
学園祭の終わりに、先輩のLINEをゲットした。
球技大会ではおそろいのミサンガをプレゼントした。
友達のお家で恋愛系甘々ドラマを見ながら準備したチョコレート。
その先輩用だけ、ラッピングが他とは違う。
「2月14日の昼休み、図書室にきてくれませんか」
指先が震える中、LINEを送った。
そう、私がチョコレートを渡す場所として選んだのは、図書室。
昼休みになった瞬間の図書室は、誰もいないのを私は知っていた。
記憶のない4時間目。先輩を待つ図書館で私の手にはチョコレートが
憧れの先輩に、手作りのチョコレート。
絶対に失敗したくないから、友達と一緒に作った。
中学3年生の時に抱いた思いを思い出さないために、わざわざドキドキするシチュエーションを作った。
外は雪が降りはじめていた。
4時間目の記憶なんてない。
バッグの中に入ったチョコレートのことで頭がいっぱいだった。
気がつけばその先輩に出会ってから半年が経っていた。
関係性はまだ変わっていない。
帰る方向が違ったから、なかなか一緒に帰ることもできず。
密かに思い続けるしかなかった。
4時間目終了まで残り5分。
教室から図書館までの距離、数メートル。
高鳴る鼓動。
初めての経験。
「なんて言いながら渡そう……」
そう考えた瞬間に、チャイムが鳴った。
4時間目終了のチャイム。私にとっては始まりの鐘。
お昼ご飯も食べずに、チョコレートを持って図書室に向かう。
私の方が先に着いた。
手には手作りのチョコレート。
数分もなく、待ちに待っていたあの姿が現れた。
先輩だ。
目の前に憧れのあの人が立っている。
「あの、これ、よかったら……」
キャラにもなく、精一杯の声で呟いて手に持っていた包装されたチョコレートを差し出す。
「えっ、まじで!」
私が好きな、目尻にシワを寄せて笑って受け取ってくれた。
「この人に恋をしてる」。幸せに包まれた瞬間、聞こえてきたのは
雪の降る外。私たちの他には誰もいない薄暗い静かな図書館。
この胸の、どきんどきんという音が聞こえてしまうのではないかと思うくらい静かな時間が流れる。
「あぁ、私はこの人に恋して…」と幸せな、ちょっと甘酸っぱい気持ちに包まれた瞬間。
突然、校内放送が流れた。
私の好きな人は、この目の前のこの人。
そう確信する直前。
一年前の夏、私の心を奪ったあの人の声が鳴り響く。
「誰かを呼び出してるんだろう」
聞き流そうとしたその時、スピーカーから流れてきた名前は、私の名前だった。
さっきまでのドキドキを全てひっくり返すように“ドクン”。胸は高鳴り、心が震えていた。
「ちょっと呼ばれちゃったんで、行ってきます」
その瞬間に赤らめた頬の色は、どちらの恋の色かは、私にもわからなかった。