「だったら2億円払って!!」
今からちょうど2年前、私が、愛しくて大切でたまらなかった彼氏に怒鳴りつけた言葉だ。彼は電話越しで、泣きながら黙り込んだ。

私にとって、すべての拠り所だった、大好きで大切でたまらない存在だった彼。何事にも動じず、どんな時でも落ち着いている彼でも、泣くのを知ったのは、そして、彼は涙をこらえられない時に、声を押し殺すように泣くことを知ったのは、これが初めてだった。

今もこれからも一緒にいるのが当たり前。そう思っていたあの頃

学生時代から交際し、すべてを信頼し、結婚前提だった彼。
半同棲で学生生活を送り、私の両親を交えて旅行に行くほどの仲で、一足先に就職した私が地方に引っ越してからは週末に高速バスで行き来してきた。
今なら、こうして私たちは信頼関係を築いてきたといえるのだろうが、当時の私たちにとって、そうして一緒にいるのは当たり前の生活だった。

婚約とは何かもよくわかっていなかったあの頃、今はまだ彼が学生なだけで、近い将来、当然結婚すると思い込んでいた。
ただそれは、私たち2人と、私を通して話を聞いている私の親の間での話だ。彼の家族は、違った。

「仕事している女なんてやめろ」彼の家族の言葉にショックを受けた

彼の家族と初めて会って、郊外に紅葉を見にドライブに行ったとき。昼食をオーダーして待っている間に、単刀直入に「それで結婚するのか、仕事はどうするの」と聞かれた。彼と今まで話していたとおりに、仕事はこれまで通りで、週末に行き来するつもりだと答えた。

そのあと、彼は実家で両親と揉めたらしい。
なんでそんな子がいいのか、と母親になじられ、ついには「仕事している女なんてやめろ」とまで彼の家族の要求が飛躍。自分の親からの強い反対にショックを受けた彼は、家族の言葉そのままを私に伝書鳩状態。
今時、専業主婦じゃないといけないとは何事だ、仕事をしていた時点で彼と婚約できないなんてありえない。
私も負けじと彼と戦うも、内心は、絶対別れたくない。別れたくはないけど、どうしてこんなにバカにされなきゃいけないのだ。
同じ学歴なのに、なんで私は働いちゃいけないんだ、社会人1年目だよ。入社時には「女性初の管理職になれるかもよ」なんて応援してくれていたじゃないか。

社会人スタートを応援してくれていると思っていた彼に、「君の仕事なんて、キャリアなんて、社会人生活なんて、大したものじゃない、捨ててもいいだろう」と暗に言われている気がした。
そして私は、家族同然に信頼関係を築いていたと思っていた彼に、「新卒で仕事を辞めるってどういうことか分かっている?私の生涯年収2億円、今払えるの?払えもしないくせに言わないでよ!!!」と罵ったのだった。

彼を罵倒してはっきりした。私の人生には「自分で稼ぐお金」が必要だ

正直、今まで仕事に思い入れもやる気もなかった、ほどほどに幸せに生きていければと思っていた自分が、大切な人を前に、お金のことで罵倒する日が来るなんて、それまで考えもしなかった。

それまでは、仕事は大事な人と楽しい時間を過ごすためのお小遣い稼ぎぐらいの感覚だったけれど、彼とのお付き合いの分かれ道に立って初めて、彼との関係とは切り離した、私ひとりの、私の人生には、お金も仕事も最低限必要になると分かった。

結婚して夫婦になれば、旦那さんのお金を共同財産だと考えることもできるかもしれないけど、それでもそのお金を稼いだのは各人だ。結婚しようが、独身でいようが、いつか離婚しようが、私が私でいるためには、自分で稼いだお金が必要なのだ。
お金はトラブルのもとだとか、子供はお金のことは考えなくていいなんて言われて育ったけれど、私が本当の意味で自由に、自分の意志で人生を作り歩いていくには、自分で稼いだお金が相棒になる。

彼と自分、両方を守るための転職。お金は私の味方だと信じて

その後、彼は就職した。彼との結婚と仕事を続けること、どちらも守りたかった私は、転職活動をして、彼の勤務地の近くで内定をもらった。
この春、引越しをして転職する。仕事が変わって、お給料は減る。
でも、お金は私が歩んでいくための相棒だと分かったから、お給料の額や貯金とか目に見える部分は、長い人生の中、増えたり減ったり、変わりゆくものでいい。
怖いのは、またいつかお金のことで大事な人を泣かせてしまうかもしれないこと。こいつのせいで、またとてつもなく不安になったり、大切な人を不安にさせてしまったりするかもしれないけれど、長い目で見たら、私が私らしくいるために力を貸してくれるやつだと信じたい。