もし今、もう一生会うことのできない誰かに会うことができるなら、私は、いなくなってしまった大切なわが子へ会いたい。

仕事は辛く、不安もあったけど、あなたがいると思えば頑張ることができた

あなたが母のお腹からいなくなって、もう2か月。
あなたは今どうしているのでしょうか?
あなたと過ごした日々はたったの11週間だったけれど、母にとってはとてもとても幸せな日々でしたよ。
母の傍からいなくなってしまった今でも、あなたは私の大切な宝ものです。

4か月前、あなたがお腹にいると分かったとき、母は、あなたのお父さんとまだ結婚していませんでした。
母も父もまだ医療の道を進み始めたばかり、正直に言うと自分たちの仕事のことで精一杯の日々を送っていました。
あなたを育てていけるだろうかという不安もあったけど、母はとてもとても嬉しかったです。

母は妊娠4週ごろから、まだあなたがエコーですら見えなかった時から、つわりがで始めました。
今まで大好きだったものが嫌いになり、ラーメンを1杯たいらげることすらできなくなりました。
吐き気や気持ち悪さだけではなく頭痛もひどくて、母は体調をコントロールするのに薬に頼りっぱなしでした。
でも、あなたは週を重ねることに、私からしっかり栄養をとってどんどん大きくなっていきましたね。
母がちゃんとしたものを食べられなくても、すくすくと大きくなっているあなたは、すでに母よりたくましくお利口な子だと感心しました。

予想外の妊娠であったことから、仕事の上司からはきつい言葉を浴びせられました。
母の仕事は助産師です。
患者様の安全を考慮して、オペやお産からは外されることになりました。
その人からは「自業自得だ」と言われました。
たしかに母にはその言葉が刺さり、つらいと思ったのですが、あなたがいなければ良かったと思ったことは一度もありませんよ。
あなたがいることで、つわりもあって仕事はきつかったけれども、あなたがお腹にいてくれると思うだけで心強く、嫌な仕事もきつい仕事もあなたとだから頑張ることができたのです。
ストレスからか、出血することもあったりしましたが、あなたは母のお腹に必死にしがみつき、大きくなってくれました。
そんなあなたを母は頼もしく、尊敬すらしておりました。
だからむしろ、母はあなたに感謝しています。

おばあちゃんの命を受け継いだと思ったあなたは、いなくなってしまった

妊娠7週頃、母のおばあちゃん、あなたにとってはひいおばあちゃんとなる人が亡くなりました。
少し前から心臓を悪くしてしまい、ずっと病気と付き合ってきたのですが、とうとうあなたの顔を見る前に、この世から離れることになってしまいました。
あなたのことを報告したかったのですが、間に合いませんでした。

そのおばあちゃんが亡くなった次の日、葬儀に向けて母はつわりのお薬をもらいに病院に行ったのですが、なんとその時にあなたの心臓が動いていることが分かったのです。
嬉しくも悲しくも、この子はおばあちゃんの命を受け継いで生まれてくる子なのだと、その時に母は思いました。
この命を大切に、ずっと守り抜こうと強く決心しました。

だけど、妊娠11週。エコーではすっかり人のかたちとなったあなたは、私のお腹からいなくなってしまいましたね。
母はあなたがいなくなった悲しさと、あなたのことを守れなかった悔しさでいっぱいです。
あなたに名前をつけてあげることができなかったこと、あなたを抱きしめてあげることができなかったこと、あなたにこの世界や空を見せてあげることができなかったこと。
母はあなたにしてあげたいことや、あなたと一緒にやりたかったことがたくさんあるのですよ。

あなたがいなくなってから、助産師の仕事と向き合うのは正直かなりきつかったです。
妊娠初期のエコーをみると、あなたに重ね合わせてしまい、あなたと同じくらいの予定日の方を見かけると、あなたがいれば今頃……と考えてしまうのです。
母子手帳のお話をするとき、あなたの母子手帳をもらって名前を書けなかった悔しさがこみあげてきます。
妊娠や出産、育児がきつい、つらいと言っている方をみると、いま大事なわが子が元気でいてくれることが奇跡なのだと言いたくなってしまいます。
もちろんそんな方々を支えてお手伝いをすることが母の仕事だから、そのようなことは言いませんが、そのような人をみると母はちょっとだけ悲しいような寂しいような気持ちになります。
これは助産師としての母のエゴかもしれませんが、元気に育ってくれるわが子との幸せな日々を楽しんでほしい、元気でいてくれることだけで十分奇跡が起っているのだと気付いてほしい、
そう思ってしまうのです。

あなたにできることを考えて、前を向いて人生を歩くことにしました

もし今あなたに会えたなら、母はあなたに何をしてあげることができるでしょうか。
母としても人としてもまだまだ未熟な私が、あなたにしてあげられることは大したことではないのかもしれません。
ですが、母は大切な愛するあなたに、ただただ会いたいです。
もう二度と会うことのできないあなたのことをずっと思っていますよ。

こうなってしまった今、あなたにしてあげられることは何かずっと考えています。
これは母の勝手な推測ですが、あなたがいなくなってしまったことをずっとメソメソしている母は嫌でしょうから、母は前を向いて人生を歩むことにしました。
あなたのお父さんと幸せになり、あなたに誇れる家族となり、あなたもその一員として迎えます。
あなたがまたここに来たいと思える環境や家族を作ろうと思っています。
助産師として多くの赤ちゃんと赤ちゃんを迎える家族が幸せな日々を送れるように精一杯尽力しようと思います。
こうすることが、あなたのためになるのではないかと未熟ながらに考えてみました。

あなたはどう思うでしょうか?
もう二度とあなたに会えなくても、私はずっとあなたのことを愛しています。