初恋の相手は腐れ縁の男子。みんなに揶揄られて照れ隠し

中学2年生になり、隣の席の男子を好きになった。初恋だった。
彼は無愛想だけど、サッカー部のキャプテンで、成績はいつも学年トップで、意外と優しい。
彼とは中学どころか高校も同じで、中1と高1以外は同じクラスだった。
特に高校では、共通の仲のいい友人もたくさんできて、彼と急接近。
彼は、女子生徒の中でも腐れ縁の私にだけは、「さん」付けをしなかった。
そのせいでよく男子生徒たちが「絶対両思いだよな」と言って私達を揶揄った。彼は怒って、学校のロッカールームにこもる。私は「やめろお前らー!!」と怒ったふりして照れ隠し。

普段、気の強い女として扱われている私だったが、告白する勇気はなかった。
彼とは是非付き合いたいけど、気の強い私が彼氏を作るなんて、揶揄われそうで嫌だった。
思春期特有の、複雑な女心だ。

でも、周囲から両想いだと言われるくらいだ!きっと彼から告白されるか、成り行きで付き合うに違いない!今はきっと、愛を育んでいる途中に違いない!!
そう思って、ついにこちらから告白はしなかった。

もうすぐお別れ。最後だと張り切ってつくったハートのクッキー

高校3年生になり、バレンタインが近付いていた。
もうすぐ、このクラスメイト達ともお別れだ……。最後くらい張り切って作ろう。
私は着色料モリモリの可愛らしい青や黄緑のクッキーを焼いた。
その中にたった一つだけ、ハートのクッキーを混ぜた。
もちろん、彼に渡すためだ。

ハートのクッキーが入った袋は、少しだけリボンを歪に結んだ。それを目印にしながら、ハートのクッキーが入っていない袋を彼以外のクラスメイト達に渡した。
「配った中にひとつだけ、ハートのクッキーが混ざってるよ!ハートが出たら、ジュース奢るよ!」
彼専用のハートのクッキーだとバレたら、皆に揶揄われてしまう。それが嫌で、そう嘘をついた。

みんなが一斉に袋をあけるなか、お!と声を漏らした彼の手には、しっかりとハートのクッキーが。

さあ食べなさい。私お手製の、愛情たっぷりクッキーを!形どころか味まで違う、自信作よ!この日のために、何度も改良を重ねたんだから!!

私の乙女心やクラスメイトたちの気遣いも真っ二つに… 

彼の周りには、ハートのクッキーを見てみたいという友人達が集まった。
今思えば、みんなは絶対、私の思い切った嘘に気が付いていたはず。
だけど優しいクラスメイト達は、誰も私達を揶揄ったりしなかった。
両想いなんだから、彼はきっとニヤつきを隠しながら食べてくれるはず。いや、もしかしたら持って帰って堪能するのかな?
私は、彼の持つハートのクッキーの行く末が気になって仕方なかった。

私の乙女心や、クラスメイト達の気遣いをよそに彼は、人の波が引いた瞬間、隣の席の友人に「お前も食う?」と言いながらクッキーを真っ二つに折った。

私のハートも、クッキーのように真っ二つになった。

「ふーん、味は同じか」
とどめまで刺されて、私の初恋は呆気なく終わった。
「ジュース奢るってのは嘘で〜す!」
悔しくて悲しくて、またもや嘘をついた。本当は、クッキーの感想を聞きながら2人で自販機まで短いデートをするつもりだった。

あれから別の人を好きになり、結婚もしたのだが、未だにバレンタインにクッキーだけは作る気になれない。完全にトラウマになっている。