「おひとり様」は気楽で良い。

他人に合わせるのが苦手で、小さい頃から『浮いて』いた私

小さい頃から他人に合わせるのが苦手だった。
両親ともに内向的なタイプだったからかもしれないし、年の近い兄弟がいなかったからかもしれない。
物心つくまで周りには両親や祖父母という大人ばかりで、歳の近い子供と関わる様になったのは幼稚園に入園した頃が最初だ。
思えば、その頃から私は『浮いて』いた。
周りに大人ばかりで甘やかされて育ったせいか、私は加減というものを知らなかった。
人よりも大柄な体躯に男勝りな性格。
私が気の済むまで遊んでいると、いつの間にか相手を泣かせてしまっている。
先生や周りの大人たちに叱られても、なんで相手を泣かせてしまったのかが分からないから反省も改善もしようがない。
問題児の烙印を押されたまま私は幼稚園を卒園した。
小学校に上がってもやっぱり私は加減がわからなかった。
最初はみんなで盛り上がっていた筈なのに、いつの間にか私一人だけが笑いの渦に取り残されていて、気がついたら周りから白い目で見られている……なんてことがよくあった。

みんなが示し合わせた様に同じ反応が出来ることが不思議で仕方なかった。
私は周りが不思議で仕方がなかったが、周りからしたら私が『不思議ちゃん』として認識されていた。
それでもまあ、小学生までは良かったのだ。
田舎の小学生にそんなに強い拘りはない。
ちょっと周りと合わせることが苦手でも、同級生とはなんだかんだ仲良くやっていた。
そんなちょっと『ズレた』子が、『空気の読めない』子になったのは中学に入ったばかりの頃だった。

嫌がらせを受けた中学時代。道化を演じることにした

中学受験をし、それまで過ごしていた片田舎の学区から電車で1時間程の県中心部にある女子校に進学した。
所謂お嬢様学校と呼ばれるその学舎には開業医や公務員など裕福な家庭の子が多く、おじいちゃんがどこそこの会社の役員なんて子も当たり前にいた。
『おハイソ』な育ちをした女の子達の中で、田舎の野山を駆け回っていたような、しかもその中でも浮いていたような子は異色に映るらしい。

初回のクラス毎のオリエンテーションで、当時ハマっていたゲームの話を熱く語った私はカースト上位のクラスメイトの不興を買ったようで、クラス替えまでの一年間、大小様々な嫌がらせを受けた。

女子の嫌がらせは陰湿だ。
無視や陰口、具体的な暴力に訴えないが、それ故にダメージの大きな嫌がらせにショックを受けた私が思い付いた処世術は道化を演じることだった。
大柄でふくよかで老け顔、贔屓目にみても中学生には見えない外見を活かして、私は『肝っ玉母さん』というキャラクターを演じることにした。
自分をキャラクター化することで、あなた達とは別の生き物ですよー、無害ですよーとアピールする。
これが思いの外上手くいって、2年生以降は嫌がらせを受けることもなくなった。
そして同時に、私はおおっ広げに好きなものを好き、ということを辞めた。

好きなものについて話すときはクローズドな空間で、同好の士と。
それが私の中の鉄則になった。
多感な時期の6年間は、20年そこらしか生きていない人間にとっては重要だ。
道化を演じることが処世術として刷り込まれた私は、大学を卒業し社会に出ても道化でいることに撤し続けた。
自分が笑われる役割でいれば大抵の人間関係は当たり障りなく流すことが出来る。周りから『浮かない』ために道化でいることは大切だ。

好きなことを馬鹿にされるなら、お一人様が気楽でいい

ただ、道化でいるうちに気づいたことだが、道化でいる人間を『イジっていい』と勘違いしている人がいる。恐らくかつて小学生だった頃の私は確実にそっち側の人間だった。相手の反応も顧みずその場で自分が楽しいという事だけを優先する。
そういう人に限って、他人の容姿や趣味をくだらないものとして馬鹿にしがちだ。

職場で休日の過ごし方の話になった。
最近のマイブームは、自宅でYouTubeを流しながら解くイラストロジックだ。
頭の中を空っぽにして無心に枠を塗りつぶして行ったらイラストが浮かび上がるのがいい。ヲタクっぽい趣味ではないだろう、とポロっと口にしたソレは彼らには良いネタだったらしい。
『ヤバwwwそんなんおばあちゃんじゃんwwwもっと若者っぽいことした方がいいよwww』

馬鹿にするような笑いに、波風立てないように愛想笑いを返す。
それだけのことで、ドッと疲れる。
どうして好きな事を好きと言って馬鹿にされないといけないのか。
どうして『らしい』趣味を持たないといけないのか。
あなた達と同じ価値観を持てないだけで、どうしてこうも気疲れしないといけないのか。

『おひとり様』は気楽で良い。
好きな物事を誰に揶揄されるでもなく、誰を気にするでもなく思う存分楽しめる。
それを誰かと共有しよう、したいという思いが私には驚く程薄い。
持って生まれた質かもしれないし、環境のせいかもしれない。
誰かの顔色を伺って嫌な気持ちになるくらいなら一人でどっぷり自分の世界に浸るのが精神衛生的にも良いじゃないか、とそう思う。

誰になんと言われようと、趣味だってカラオケだって外食だって、『おひとり様』は気楽でいい。