小学生の夏。友達に裏切られて、誰も信用できなくなった

信じていた人に裏切られるほど怖いことはない。

小学四年生の夏、学校で一番怖いと有名な先生に私は怒られた。
当時、同級生の間では、校庭にあったバスケットボールのコートによじ登って遊ぶのが流行っており、その日は私を先頭に友達二人も一緒に登っていた。いわゆる「いつメン」だ。
今思えばとても危険な遊びだし、怒られて当然なのだが。

私を先頭に登っていたと言っても、登り棒で上まで到達しないくらい登りのセンスがなかった私なので、なかなかフープの高さまで辿り着けず、下にいる友達に「早く上に行って!」と急かされ、必死だった。
ちょうどその時「何をしている!」と先生が近付いてきた。と同時に友達二人はすぐに私から離れ、「この子が勝手に登った」と言った。困惑する私のことはお構いなしで、先生は「どこのクラスだ」と言って私の名札を引っ張り、「担任に報告するからな」と言っていなくなった。

鬼教師に名札を引っ張られた時の恐怖は今でも覚えているほどの強烈だったが、もっとこたえたのが一緒にいた友達二人の態度だった。
三人で遊んでいたのに「勝手に登った」ことにされ、更には翌日から何故か全く口も利いてくれなくなった。当時の私にはあまりにもショックだった。

私の頭の中はいろいろなことがぐるぐると巡った。
学校であの先生に会ったらまた怒られるのではないか。担任は私のことをどう思っただろうか、幻滅したのではないか。両親にこのことを報告するつもりだろうか。友達は何故あんな態度を取るのか。

学校にいても家にいても怒られる気がして常に不安になり、誰のことも信用出来なくなった。誰にも相談出来なかった。

家に私と祖父だけになった隙に、泣きながら打ち明けた

ある日、漠然と「死んだら楽になるのだろうか」とも思うようになった。その時ふと、祖父の顔が浮かんだ。
トイレに電話を持ち込んで祖父に電話することを思い付いたが、電話だと祖母が出る可能性がある。私は祖父への電話を断念した。

何日か経ち、両親がいない間の世話をしに祖父母がうちに来た。
祖母が買い出しで一瞬いなくなった隙に、たぶん、もう今言うしかないと腹を括ったのだろう。私は祖父に「絶対に誰にも言わないで欲しいけど、話だけ聞いて欲しい」とお願いしてすべてを打ち明けた。

私は話しながら、涙が止まらなかった。
祖母が帰ってくる前になんとか気持ちを落ち着かせた。

宿題を進めていると窓の外にこちらに向かう母の姿が見えた。予定の帰宅時間よりもだいぶ早い。ハッとして祖父を見た。
誰にも言わないと約束したのに、私は祖父にも裏切られたのか。
そんなことが頭をよぎると同時に玄関のドアが開き、私は母と目が合った瞬間、その場で泣き崩れた。私が気付かないうちに祖父が母に電話してくれていたのだ。
祖父母はその様子を見て、その日は帰ったと思う。

ストレスで曖昧な前後の記憶。あのとき打ち明けられなかったら…

これをきっかけに両親や担任の先生が私の心の状態を知ることとなり、いろいろとケアをしてくれた。
過度なストレスのせいだと思うが、この前後一ヶ月程度の記憶がかなり曖昧で覚えてないことも多々ある。
あの時、祖父母が家に来ていなかったら。祖母が買い出しに行かなかったら。私が勇気を出して祖父に打ち明けなかったら。祖父が私との約束を破らなかったら……私いったいどうなっていたのだろうか。

四年前の冬、祖父は急に亡くなった。
また胸が苦しくなったら、私は誰に話せばいい?
その答えが分からないまま、今日も私は生きていて、このエッセイを書きながら、今はもう誰にも話せない私ではないことに気付いたりもしている。