社会人になったらバレンタインは呆気なく終わる
社会人になった私のバレンタイン当日は、上司と取引先の方にブランドのチョコレートを渡すだけ。後は、渡したチョコレート代を職員で割り勘する。これで終わりだ。
彼氏がいる子、好きな人がいる子はきっと今日という日の思い入れが違うんだろうけど。
「 バレンタインってこんなものか」と仕事をこなし、呆気なく終わってしまうバレンタインは随分と簡素的なものになってしまったなと、私は思ってしまうのだ。
私はバレンタインの時期になると高校時代を思い出す。
考えてみれば、幼稚園の頃からバレンタインなんてイベントは普通にあって、誰かに渡すことは一般的なことだった。
小学校になると友チョコやら義理チョコ、本命チョコなんて分類ができて、友達や好きな人には手作りのチョコを渡すのが主流になった。そして年を重ねるごとに作るチョコレートがやクッキー、生チョコ、生キャラメルなど、どんどんバリエーションが豊富になっていった。
渡す量も増え、求められるレベルも高かった高校時代
高校になると渡す量までも増えて私を悩ませた。
私の所属していた部活では、バレンタインの時、女子には先輩・後輩、男子は同級生にあげるのが暗黙のルールだった。
渡す手作りチョコはみんなレベルの高いものばかり。渡すものが誰かと被るといけないし、男子にも渡すとなると女子力が問われる気がして、気疲れる。だからこの時期になると私は気が重かった。
私は不器用なので、作るとなると膨大な時間がかかる。だからなるべく簡単なものにしようと思い、たこ焼き器を使って作るガトーショコラにした。
何週間も前から準備をして……準備をしてたはずなのにいざ作り始めると、「え、バター足りない?」なんてことになる。
のちのち火の通りも悪くなって生焼けになったものもいくつか。
時間を見ると、もう夜中の1時を過ぎている。
コンビニに、とりあえず足りないバターを買いに行った。でもバターは売ってなかった。代用になるものはケーキマーガリンだけだった。
私はまず人数分完成させることにしようと思い、仕方なくケーキマーガリンを買って帰って、またたこ焼き器でガトーショコラを作り始める。
この時点でもう1時半を過ぎていた。
大体人数が多すぎる。思ってた以上に時間が掛かってしまった。結局全員分作る頃にはもう3時近かった。
ほぼ仮眠をするように寝てから早朝起きて味見、ラッピングをはじめる。
味見してみると、ケーキマーガリンとバターを使用したものでは味が違った。バターの方が断然美味しかった。
けど、もうゴチャ混ぜにして分けてしまったので、ロシアンルーレットのようになった。あとはもう粉砂糖かけて知らん振り。
ひたすらにラッピングしてしまって、なんとかバレンタイン当日に間に合わせた。
達成感のあったガトーショコラ。苦労したあの頃が懐かしい
この日の達成感は高校時代の中で、きっと定期考査より頑張った1日だったかもしれない思う程だった。
あとは渡すだけ。たこ焼き器で焼くガトーショコラは幸い誰とも被らず、受けも良かった。私は、誰にバターで作ったものが渡るのか、マーガリンで作ったものが渡るのかちょっとソワソワした。
男子に聞く勇気はなかったけど、案外私が気にしてる程ではなかったみたいで、女子の中では、
「丸くて可愛い!美味しい!」
と言って食べて貰えた。
勿論、皆も一生懸命作ってくるので貰えるチョコも沢山あった。バレンタインを迎えるまではあんなに私を悩ませたのに。貰ってからの数日間は丹精込めて作ってくれたものが食べられる幸せなひとときだった。
今は手作りチョコレートというものに解放された。でも何か物足りない。
皆に渡すために悩んだり、苦労したり、失敗したり、そんな風に手作りして向かえるバレンタインが社会人となった今では恋しい。