わたしが知りたくなかったのは、母の『不倫』。
知ったのは1年前、里帰り出産で実家に帰っていて、夜中の慣れない授乳中に母がメッセージを返信しているところを見てしまったからだった。

母がいつも話す人には妻子が。不倫にはならないと思っていたけど

父は8年前に亡くなっており、その直後、母は少し精神を病んでしまっていた。病院にも通い、薬を飲んでいた。
当時弟とわたしは学生、妹は社会人。母はわたしと弟の学費のために、薬を飲みながら仕事をしてくれていた。家族にも母がどうすれば良くなるかが分からないし、正直なところどう接すればいいかも分からない状態のまま、2年程が経った。
信頼し、守ってくれる人に母は出会ったのだと思う。新しい上司が来たと話していた。その頃から良い印象だったようで、すごくイケメンで、面白い人だと母が言っていた。

その頃からその人の話題が増えた。母が仕事から帰ってくると、その人の話題がほとんどで、この人のこときっと好きなんだろうな、とはずっと思っていた。
わたしと母は似ていて、母の行動はわたしが好きな人ができたときの行動や言動そのものだった。でもその人には奥さんと子どもがいるとも言っていたので、さすがに不倫にはならないだろうと思っていた。
父も亡くなる前に不倫して母は散々な目に遭っていたので、不倫された家族がどれだけの地獄を味わうか分かっていると思ったので、それはしないと勝手に思ってしまっていた。
何度かその人に会ったことがあるが、その人と一緒にいる母はとても楽しそうに笑っていた。

「男のために綺麗にしています」と分かる母の姿がつらかった

その後、母は職場を退職し、同じ業種の別の会社で働きはじめた。やがてわたしは結婚し、家を出た。
その頃から母の見た目が綺麗になったな、と感じていた。妹と母で住んでいて、ときどき妹から「お母さんの様子がちょっとおかしい」と相談を受けていた。たまに泣いて帰ってきたり、夜中に帰ってきたり、朝に帰ってきたりするのだと言っていた。
あと何よりも違和感があったのは、必ず夕方に一度帰ってきて、仕事着からスカートに着替えたり化粧を直したりしてから家を出ること。足にもネイルをするようになったこと。
おしゃれをするのはとても良い事だが、明らかに男の為に綺麗にしています、というのがすごく分かるのが少しつらかった。

姉妹弟で話し合って、様子を見ようという事になった。
その間にわたしは妊娠し、臨月を迎え実家に戻ってきた。
決定的な事があったのは、2日連続で飲み会と言って家に帰って来なかった。おそらく不倫相手と過ごしているのだろう。
わたしも臨月だし、何があってもおかしくないので、妹も交えて少し注意する事にした。これまでの事も含めて上司と関係を持っているのか、と少し問い詰める形になってしまったが、母はそんな事はしていない、の一点張りだった。

化粧したりスカート履いてから出るのは夜勤の一環だと言われ、仕事なのにそれもしてはいけないのか、とも言われた。
そう言われてしまっては何も言い返せないので、疑ってごめんねと終わる事にした。
わたしがちょっと疑いすぎたか、お母さんに酷いことをしてしまったのかと、自分を責めた。それからその人に関わる話はしなくなった。

自分が受けた苦しみまでも帳消しにした母。恋は人を狂わせる

そしてわたしは出産し、息子と一緒にまた実家に戻ってきた。
慣れない夜中の授乳中に、母のハートマークいっぱいのメッセージが携帯から見えた。
母はやはり不倫していた。

恋は盲目とはよく言うが、本当にそうだと思う。
自分が受けた苦しみまでもを帳消しにしてしまうのだ。
そして家族に嘘を突き通さなければいけない程、恋は人を狂わせるのだ。

偶然目にしなければ知らずに済んだ。
母が悪女になってしまった。
母も女なんだな、と初めて知った。
感謝ももちろんたくさんあるが、やはり複雑である。