小学3年生。噂話から気になり始めた転校生のK君
小学校3年生の春、ある男の子が私の学校に転校してきた。
私とその転校生K君は家が近所ということがわかり、一緒に登下校しているうちに自然と仲良くなっていった。
小学生は噂話が大好きだ。
仲良くしていたり、バスで隣の席に座ったりしただけで、〇〇君は〇〇ちゃんが好き、と噂になる。
でも、その噂を信じてしまうピュアな心を持っているのも小学生だ。
実際に、K君が誰かに「私のことが好き」ということを話していたという噂が一気に広まった。そしてピュアだった小学生の私も自然と意識し始めた。
3年生も終わりかけの2月、バレンタインの時期がやってきた。
当然、小学校にはお菓子は持っていってはいけない。でもバレンタインのチョコを渡すことだけは、暗黙の了解で許されていた。
意地っ張りで負けず嫌いな私は、バレンタイン前日、お母さんに、「K君にチョコが欲しいって言われたからあげる」という言い分でチョコを買ってもらった。
バレンタイン当日、私は少し早く学校へ行き、誰もいない教室でK君の席の引き出しの中にそっとチョコレートを入れた。
私はその後のことは考えていなかった。というのも、学校にお菓子を持ってきたらダメということを皆わかっているから、K君は何も言わずに自分のカバンにしまうだろうと勝手に予想していた。
しかし、K君が学校に着き、チョコを発見した瞬間、大声で「なんか入ってる!!」と叫び、クラス全体が大騒ぎになった。
その後、担任の先生の「カバンにしまいなさい」の声で静まったが、同じクラスだった私にはその間の時間が苦痛でしかなかった。
思春期の私。隠していた弱さに気づかせてくれたK君
別に何か恥ずかしいことをしたわけでもないし、K君も喜んでいたにもかかわらず、私は一日ずっと憂鬱だった。
なぜなら、自分の意地っ張りで負けず嫌いな性格は、シャイで臆病な本性を隠すためだということに薄々気づき始めたからだ。
“初恋”というにはあまりにもぼやけた感情だが、私とは違って何事も恥ずかしがらずに発言する力のある真っ直ぐな性格のK君から、自分自身を知るきっかけをもらえた。
結局、両思いだということはわかっても、小学校3年生には“付き合う”という概念がなく、そのまま小学校生活を過ごしていき卒業。別々の中学校へ進学し、K君と会うことはなくなっていった。
それから何年も経ち、私は高校卒業後アメリカの大学に進学し、長期休暇の間だけ日本に帰ってくるという生活をしていた。
私は日本に帰国すると、インスタグラムのストーリーに「帰国しました」と空港の写真を添えて投稿した。
すると、インスタグラムでだけ繋がっていたK君から、「帰ってきたの?」とDMが届いた。そのDMをきっかけに、よく遊ぶようになった。ご飯に行ったりショッピングをしたり、夏祭りにも二人でいった。
大学入ってすぐにできた彼氏と辛い別れ方をしてしまった私は、しばらく勉強に明け暮れた生活をしていたけれど、仲良しの幼馴染とは自然と楽しい時間を過ごしていた。
その気持ちは恋愛感情の“好き”とまではいかなかったけれど、「幼馴染の恋ってなんかドラマみたい」と私の乙女心もくすぐられ、また意識をするようになっていた。
「告白するつもりだった」のLINE。本当は似たもの同士だったんだ
いつものように会う約束をして出かけたが、その日はK君の様子が少し違った。
その日は、友達ではなく恋人に向けるような甘い雰囲気で、私も「ついに!?」と思ったが、結局その日は何も言われずバイバイした。
私はそこで初めて、少しは期待をしていた自分と、何も言われなかったことに少し安心している自分もいるということに気がついた。
その日、帰宅後にK君からのLINEが届く。
「今日告白しようと思ってたんだけどなぁ」
このLINEを読んだ私は、私が小学生の頃に好きだった、堂々として男らしいK君じゃなくなったのだなと思い、一気に冷めてしまった。
でも、それはK君が変わってしまったわけではなかった。
私も小学生の頃から変わらず、自分から素直な気持ちを打ち明けることもなく結局、意地っ張りで負けず嫌いのまま。またK君も、みんなの前でだけ堂々としていたのはシャイで臆病な本性の裏返しだったということ。
本当は、似たもの同士だったんだね。
小学生の頃と同じく、またK君から大事なことを教えてもらった。
似たもの同士が一緒に過ごすのは居心地がいいけれど、譲り合える関係でないとダメだということを。