小学生の時、好きな人がいた。彼はA君という。
彼は賢く、優しく、万能で、典型的なクラスの人気者だった。その一方で、私は何においても中の下の女子生徒だった。飛び抜けた能力もないうえ、コミュニケーション下手で大人しかった。とてもじゃないけど彼と釣り合うとはいえない。
私の小学校は小規模で6年間ずっと変わらないクラスだったのにも関わらず、彼と2人で話したのは両手の指の数に収まるくらいだと思う。目が合ってはすぐに逸らす、そんなことを繰り返していた。
そのため、「A君はこの子が好きなのではないか」と噂されるような相手は、容姿がいい子や、頭のいい子、彼と仲良く話せるような子だった。
当然のことだ。私はその子たちに少し嫉妬しながら、半ば彼のことは諦めていた。

同じ中学校に進んでも関係性は変わらない。しかし、私と彼との間に噂が…

そしてほぼ小学校の時と同じメンバーの中学校に進学した。もちろん、A君も一緒だ。また3年間同じクラス、それだけで私の胸は高鳴った。
私は友達がいるからというだけで、苦手な運動部に入部した。それがきっかけとなり、私は以前より明るく積極的な性格に変わっていった。
相変わらず私の取り柄は何もないが、取り柄がないのならば作れば良いのでは……。そう考えられるようになってからは、ひたすら優しい人間になることを目標にした。

元々、比較的心の広い方ではあったが、引っ込み思案のせいで、積極的に周りを助けに行ける人間ではなかった。目標を持って行動するようになると、周りからは「貴方は優しい人」、「君は周りをよく見ている」という評価をされるようになった。このことは単純に嬉しくて、私の中で優しくいることが当たり前になった。
しかし、私の心にはどうしても「A君は今の私をどう思っているのだろうか」という気持ちがあった。彼との関係性はほとんど変わらない。むしろ、彼は学校の中でも中心人物となっていて、到底私が手の届く存在ではなくなっていた。

そんな時、「Aは紬(筆者)のことが好きらしい」という噂が流れ始めた。
突然のことだったため、「私が彼のことを好きなことがバレて、からかわれているのだ」と思っていた。しかし、だんだんと公に冷やかされることが増えてきたため、もしかしたら……と噂を信じたくなった。
そして、中学1年生の冬に、私は人生初めての告白をすることにした。
バレンタイン、この日しかない。意気地無しの私はこのチャンスを逃す訳にはいかないと感じたからだ。友達も後押しをしてくれた。

当日、彼を目の前にすると頭の中が真っ白になった。告白の言葉もあんなに考えた、かわいい表情も考えたのに。震えた声で「察して下さい」と伝えチョコを手渡し、逃げるように彼の前を後にした。
失敗したかもという思いと緊張から涙が溢れて、すぐ近くにいた友達が寄り添ってくれた。

ホワイトデーに分かった、彼の本当の気持ち。涙があふれた

ホワイトデーの日、彼も直接お返しを渡してくれたが、何も返事をしてくれなかった。
私の恋はこれで終わったのかと察した。すると、彼は再度私の前に現れ、「いいよ」と気まずいような、照れたような顔をして言ったのだ。
私は、また涙が溢れた。今度は嬉し涙。
後に彼から聞いた話では、彼もまた、私のことを小学生の時から好きだったという。私から告白しなければホワイトデーに自分からしたかもしれないとも言った。
私は衝撃を受けたが、バレンタインに至るまでの日々の努力が無駄だったとは思わなかった。彼のために自分を変えて成長できたことが貴重な経験であり、その努力ができる自分のことも少し好きになれた。そして私をそうさせてくれた彼が大好きだった。

既に別れてしまったが、今でも彼のことは尊敬している。この経験を生かし、自分自身が魅力ある人間になり、また素敵な人と出会いたいと願っている。