ピンポーンと家のチャイムが鳴り、はーい!と私は印鑑を持って出ていく。
やった、ついに届いた。

ビビっときたら即購入。年に1度のあまいお楽しみ

自分のご褒美として、あらかじめネットで注文していたチョコレート。家族の分も毎年、買うようにしている。

社会人になってからバレンタインデーが近づくと、よく百貨店のバレンタインフェアで色々見て回り、ちょっと値は張るが、見た目がかわいくて手の込んだ美味しそうなチョコを選ぶのが楽しみだった。
だけど、最近はコロナ禍で人混みが予想され、しばらく百貨店に足を運べていない。

そこで、ネットで注文するようにしている。
ネットでバレンタインデーの特設ページに飛び、たくさんのショップの商品の写真を隈なくチェックして、自分がビビッときたものに目星をつけ、レビューで美味しさに間違いがないかも確認する。
ふむふむ、なるほど。これは、確かに美味しそうだ。
そして、勢いよく、ポチッと商品をカートに入れ、購入画面へと進む。そうだ、迷ってはいけない。
去年は迷って様子を見ているうちに、人気だった商品は売り切れてしまっていた。
使えるクーポンは使って、購入手続きを素早く終える。あとは待つのみ――。

「チョコ」の一言でやにわに家族が集まり、品評会がはじまる

そして、冒頭のように、楽しみにしていたチョコが自宅に届いたのである。
「段ボールたくさんあるけど、あんた、また何買ったん? また、いらんもん、どうせ買ったんやろ」
母が不機嫌そうに私に言ってきた。
「チョコやよ。バレンタインデーやから」
そう私が答えると、母の態度が一変する。
「えっ、チョコ? 今年は、どんなチョコやの?」
すぐ箱を開封するよう、要求をしてきた。
くそう、早すぎないか。やむを得ないと言いながらも、どこか喜んでいる自分がいる。
自分がプレゼントしたチョコで喜んでくれる人なんて、今のところ、家族以外いないからだ。

学生のころ、付き合っていた彼氏に渡したりしたけれど、別れてからは誰にも、ましてや男の人になんてチョコレートをプライベートで渡したことなんてない。
友達に配ることもあったが、最近は会えていないし、バレンタインデーに職場でチョコを渡そうという話も出たらしいが、お返しに気を遣うからと、チョコ渡し会は職場で無しになったのである。
だから、「うまっ、おいしいな、これ」っと、素直に感想を伝えてくれる家族がいるのは、すごく嬉しかった。家族のおかげで、私は寂しい思いをせずに済んでいるのかもしれない。
「ちょっと、私も食べたいわ」
途中で妹も加わり、箱の中のチョコが減っていくスピードが加速する。
「こっちのほうが、私好きかも」
いつのまにか食べ比べが始まり、品評会が行われることもある。
「少しは私の分、置いといてね!」
チョコが消えていくスピードの速さに焦り、私はお気に入りのチョコのキープに入る。
「もお、そんなケチケチ言いなや」
母と妹が言ってきて、冗談半分でチョコの争奪戦が始まる。
父はというと、チョコがそんなに好きではなく、お餅が大好きなので、チョコ大福を買って渡すことにした。
口数少なく、物静かな父は、そんなに感情を表に出すタイプではないが、うん、おいしいと、うなずきながら一個一個、ゆっくり味わって食べてくれていた。

市販でも手作りでも、相手を思って渡せることが幸せだから

ありがとう。私のチョコを食べて喜んでくれて。
いつか、好きな男の人に渡す日がきたらいいけどなあ。100均でケースやら梱包用のかわいい袋を買い、スーパーで板チョコを何枚も買って、不器用だったから徹夜で手作りしたチョコを彼氏に渡していたあの頃が懐かしい。
市販のチョコも、手作りのチョコも、誰かのことを思ってプレゼントすることは、もらう側はもちろん、渡す側も幸せなことだと思う。
そうだ、家族にチョコを食べてもらえる私は、幸せ者だ。

もちろん、自分用もお忘れなく!
家族から死守したチョコを、隠れてこそっと頬張る。
ああ、おいしい。
バレンタインデーは贅沢していいんだ。
罪悪感を感じることなく、チョコをたくさん味わえるなんて、なんて幸せなんだ。
上品なカカオの香りが、口いっぱい広がった。