「先輩!採用サイトに載ってたインタビュー見ました!学生の心掴んでるな、って思いました。すごいです!」
後輩から業務中に入ったチャット。そうだ、数か月前、採用担当の社員に頼まれて、就活生向けに社員インタビュー動画を撮影したのだった。

カメラの前で未来を見据えて話す先輩社員は、私がかつて憧れた姿

就活生が望むような受け答え。みんな、"キラキラ"した社員が見たいんでしょう?
「こんなことに仕事のやりがいを感じています」「今はこんなことに困っているんです」「周りの人の助けを借りて打開しています」
うん、誰がどう見ても模範解答。
このインタビューを見るうちの会社を志望している学生はきっと、私のことを、未来を見据えて前向きに働いている先輩社員って思う……だろう。そんな社員を演じた。いや、"演じた"なんて大層なこともない。ただ、「こう言えば満足なんでしょ?」って私が思うことをカメラの前で発言した。もちろん、仕事が大好きでたまらないって表情と一緒に。
動画の中にはそんな誰かの姿が5分間映っていた。私自身が就活生だった時に憧れたような姿を、頭の中で一生懸命思い出して。

新卒で入った今の会社には、勤め始めて3年目になる。
文系からIT会社に入社。今のご時世よくある話かもしれない。「入社後に充実した研修が用意されています!」とか、「アットホームな会社です!」なんてしょうもないうたい文句で入社を決めた。今思うと安直すぎたかもしれない。
でも、就活の相談に乗ってくれた先輩社員がすごく親身に話を聞いてくれて、キラキラした表情で会社の話をしてくれたことを覚えている。私もこうなりたい、って思った。

入社3年目、一部の人は私を“キラキラした人”と思っているかも

入社してすぐ、仕事を始めて1年は右も左もわからなくて、よく先輩にも怒られていた。気付くと同じ部署のデスクから人がいなくなっているまで残業をしている、なんてザラだった。でもそれが新入社員だと思った。未経験で入ったら、そのくらいして当たり前でしょ、って思っていた。
苦しいながらもなんとなく仕事を続けて2年目。人生初めての職場での後輩ができた。情報系の大学から入社した後輩は私よりずっと仕事ができて、残業なんて1回もしたことがなかった。情報系の知識もあったのだろうし、きっと本人の要領もよかったのだろうと思う。後輩との距離の取り方がわからなくて、仕事も人間関係もうまくやれない自分のことが嫌いになった。あーあ、後輩に的確に指示を出して、一挙一動を羨望のまなざしで見られるような先輩になりたかったな。
3年目。1年目の頃より随分仕事の勝手(どこで手を抜くべきかとか、誰に頼るべきかとか)もわかって、なんとなく人間関係もうまく回るようになってきた。2年目の頃うまく付き合えなかった後輩と飲みの席で一緒になることも増えて、少しずつ苦手意識もなくなってきた。3年もいたら嫌でも顔見知りは増える。そんな、惰性とか、いつの間にか、とかで、なんとなく私の社会人生活がうまく回るようになってきた。会社の一部の人は私のことを"キラキラした人"って思っているかも。

動画に映る自分が、あの日思い描いた自分に一番近いのに一番遠い

働くことって何だっけ。私って何が楽しいんだったっけ。何に憧れてたんだっけ。
今、どうしようもなく仕事がつまらない。

就活生の時に憧れた、キラキラした先輩社員の姿を模倣することはできるようになった。誰かが私のことをどう思っているとか、こう思われたいとかに応じて身の振り方を変えられるような姑息さは手に入れた。
それでも、「私って今、キラキラしている!」って実感がわかない。1年目の時のがむしゃらさも、2年目の目標の姿との遠さからくる自己嫌悪も、惰性で過ごせるようになった3年目で、自分の内側からふっと消えてしまった。いや、とっくになくなっていたのかもしれない。
就活生向けの動画に映る自分が、あの日思い描いた自分に一番近いのに一番遠い。

あーあ、明日にでも辞表を出してしまおうかしら。思い浮かべるものはもう何もないけれど、明日も私は私を演じて生きていく。