「まあまあ、とりあえず座りーよ。大丈夫やけん」
と声をかけてくれる大人がいなかった事は、17歳の私にとって人生最大の不幸だっただろう。
もうすぐ26歳になる私から、もし今あなたに会えたなら、伝えたい事がひとつだけある。
あの時してきた選択に何ひとつ間違いなんて無かったよ。

折角入学した進学校を辞めて、今更専門学校に行くなんて言えないよね

要領良く、それなりに何でも出来たから、お姉ちゃんと同じ様に、良い大学に進学することをずっと期待されてきたね。
何となくそれなりに良い高校に進学して大学に行くものだと思ってた。なりたいこともやりたいこともそれなりにあったけれど、本気でやりたい珈琲の仕事を見つけたあなたは困ったと思う。大学に行くよりも専門学校へ進学する方が近道だったものね。
でもその選択は難しい。ずっと期待してくれた両親ががっかりするかもしれないし、折角入学した地元の進学校を後1年と少しで卒業するこのタイミングで、今更専門学校に行くなんて言えないよね。
私はすごく悩んだよ。今までそんなこと考えたこともなかったのに、急に必死に勉強する意味が分からなくなった。毎日やる気になれない沢山の課題に追われて息吐く暇もないけれど、意識の高いクラスメイト達は難なくこなしているように見えた。
悩んで、出来なくなって、それからすぐ学校に行けなくなるよ。何でこんなに出来損ないになったのか悩んだ。だって今までは何でも何となく出来た。今考えたら、その内のどれにも本気で選んだ選択も本気になってやったことも無かったんだけどね。

死に損なってただ涙が溢れる状態から、はたと気づく瞬間が来る

生きている意味も価値もない私は何度か、正確に言うと3回死のうとして3回とも失敗した。死に損なって、笑えなくなって、ただ生きているだけで涙が溢れるような状態だった。
ママが、彼が、友達が私のために泣いている。ていうか、私が泣かせてしまっている。
自分のことで精一杯のあなたには何も見えていないだろうけど、みんなあなたのことを心配してくれてたよ。大丈夫、心配しないで。そんな状態が2ヶ月くらい続いた時、はたと気づく瞬間が来る。

私だけがこんなに傷つく必要ってある?
私の進路は私のもので、学校に決められる必要はない。やりたいことを誰にもはっきり伝えないから、自分で抱え込んでこんなに悩んでる。
パパもママも、いつだって私を応援してくれていたのに、どうして伝えられないんだろう。初めて本気でやりたいから、否定されたくなかったのかもしれない。
そうか、私本気でやりたいことを見つけたんだ。
それからは早かった。高校の編入試験について調べて、相談して、3年生の春に編入。授業と初めてのアルバイト、楽しかった。髪を染めて帰った日、不安になるだろうけど、パパとママは似合ってるって笑ってくれたよ。

あれからもうすぐ9年、夢みたいな夢見た大人になれたよ

ね、大丈夫だったでしょう?あれからもうすぐ9年が経とうとしてる。
人生のどん底にいるような思いをしているあなたに、将来を信じて欲しいからちょっとだけ今の私のことを教えるね。
もうすぐ26歳の私は、17歳の私を想って泣いてくれた彼と結婚して2年が経ったよ。そんなに広くないけれど、好きなものに囲まれた部屋でくだらないことで笑い合える毎日で。
念願叶ってバリスタになって、商品開発もやってる。大会にもチャレンジして、沢山賞状も貰った。夢みたいな夢見た大人になれたよ。
それから。それから、あなたの左腕の消えない傷に、今度タトゥーをいれることにした。
あなたの辛い思いが今の私の原動力になってるから。支えてくれた沢山の人の気持ちを忘れないように、世界一格好良いバリスタになるために。
大丈夫、何ひとつ間違った選択なんて無かったよ。
あなたのことが大好きな、26歳の私より。