「ママに手紙を書きなさい」そう言われて思い出した10歳の記憶
「ママに手紙を書きなさい」
高校3年生の秋、突然パパにそう言われた。ああ、もう時間がないのだなと思ったよ。
私はママに手紙を書いたことなんてなかったよね。でも、ママから手紙を貰ったことはあった。
小学校での二分の一成人式のとき、私が10歳だったとき。
「あなたが生まれたとき、こんな幸せなことってあるんだと思いました」って書いてくれていた。嬉しかった。最大の肯定だった。
私の誕生を喜んだ手紙をくれたママが、死を目の前にしている。私になんて言葉がかけられるだろうか。
いっぱい考えたママへの手紙。感謝を書くのはなんだか嘘っぽくて…
私、もうすぐ受験だよ。受かったら大学生になるよ。そうしたら彼氏ができちゃうかもしれない。パパには内緒で紹介してあげる。
もうすぐハタチだよ、大人だよ。この先結婚だってしちゃうかも。ウエディングドレス着たところ見たいでしょう?言ったことないけど私、ママみたいなお母さんになりたいと思っているから、子どもができたら一緒に可愛がってね。
こんな内容を記すことが、あまりにも残酷であることは理解していた。でも、ママにもっと生きてほしかった。未来が楽しみになったらもしかしたら……って18歳の私は思っていたんだ。
いっぱい考えた。未来以外になにを書けば良いのだろう。過去?感謝?ここで感謝の言葉を記すのは嘘っぽくなる気がした。パパに書けと言われたから書いたみたいで、「母の日に感謝の気持ちを伝えましょう」みたいで。
もうすぐ七回忌。夢では会えるから、未だにママが本当にいなくなってしまったのか、わからなくなるときがあります。そして、手紙が間に合わなかったことを後悔します。
何年経っても、あのときなにを言葉にすればよかったのか、正直わかりません。でもあの頃よりちょっとおとなになって、少しだけ自分以外のことを考えられるようになりました。
10歳のとき、私のことを肯定してくれたみたいに、ママのことも肯定すればよかった。意地なんか張らないで「ありがとう」も素直に言えたらよかった。
私が生まれたことを「幸せ」と言葉にしてくれたママヘ伝えたい感謝
ママへ。
ママがいなくなってからおばあちゃんに、
「いつだか、学校から帰ってきたあなたが、お母さんにその日のできごとを全て話しているのを見て、おどろいたよ。私はあなたがシャイだと思っていたから」
って言われたの。
そうだった、私はママにはなんでも話してた。一番の相談相手だったかもって気付いた。私も将来母親になるときは、ママみたいに子どもがなんでも話せる存在になりたいって思っているんだ。
私が生まれたことを「幸せなこと」って言葉にしてくれたとき、恥ずかしくて言えなかったけど嬉しかったよ。いつも味方でいてくれてありがとう。自分が思うようにしていいよっていつも言ってくれていたのも、今なら簡単に言えることじゃないってわかるよ。
感謝してる。ママの分も生きてやるって本気で思っているから、ママの年齢は追い越すつもりだから、どうか見ていてほしい。
もうすでに話したいことがたくさんあるよ。だから、またいつか、私の話を聴いてよね。