学生時代を思い出す時、ふと頭に浮かぶ『春田先生』。
中学時代の私の担任であり、部活動の顧問だった人。
あのころ、うまくいかない日々にどうしていいか悩んでいた私を救ってくれた人だ。

卓球が上手いということが私のアイデンティティだったのに

中学時代、私は卓球部のエースだった。
というのも、小学3年生から卓球を始め、他の部員よりも競技歴が長いことが主な要因。
市内大会で優勝したことはあるが、県大会では初戦で負けることがほとんどの大して強くない選手だ。
それでも他の部員たちにもてはやされ、卓球が自分の持つ唯一の特技として、中学生の私の生活のすべてだった。

中学2年生の時、そんな『部活動命』の私に、衝撃的な出来事が起こる。
春、私より卓球が上手い後輩が入部してきたのだ。
これによって部活動の勢力図は大きく変わった。
順位戦でその後輩に負けた私は、エースの肩書きを失ってしまう。
私のアイデンティティでもある、卓球が上手いという特徴が奪われてしまった。
卓球をやっていて、一番悔しかった瞬間だった。

そんな時にやってきたのが、部活動の新しい顧問、春田先生だ。
春田先生は数学の教師で、卓球は未経験。
小柄で、運動神経も良さそうではない。
正直、期待はずれの顧問の先生だった。

中学校生活最後の試合中、大きな声援が聞こえてきた

もっと強くならなきゃいけないのに、卓球の知識がない顧問が来るなんて。
練習や試合で的確な指示は見込めない。
先生の指示に頼らず、自分で強くならないと。
こんな自分勝手なことを考えていた私は、部活動よりも昼休みの自主練やクラブチームでの練習を優先した。
春田先生は、私が避けているのを察してか、あまり指導してこなかった。
きっと扱いにくい生徒だったと思う。

月日は流れ、中学校生活最後の大会。
15歳の私にとって、一番大事な大会が始まった。
順調に勝ち進み、県大会の2回戦。
勝てば全国大会出場が見えてくる大事な試合。
対戦相手は、スポーツ名門校のエースだった。
ああ、これで負けだな。
チームメイトも、コーチも、私さえもそう思った。
試合が始まると、同じ時間に別のコートで対戦していた後輩の応援にコーチやチームメイトは行ってしまった。

中学最後の大会なのに、なんだかさみしいな。
誰も、私に期待なんてしてないんだ。
そう不貞腐れていた時、観客席から大きな声援が聞こえてきた。
「ナイスボール!もう一本!」

声の先にいたのは、私が嫌っていた春田先生。
誰が見てもぼろ負けの試合なのに、一生懸命手を叩いて、最後まで応援してくれた。
私がこの声援にどれだけ励まされただろうか。

さみしくて苦しかったあの時、先生の応援があったから

春田先生、あの時は応援ありがとうございました。
負けてしまったけど、先生の応援があったから、最後まで自暴自棄にならずに、満足のいく試合ができました。
先生の応援がなかったら、卓球を、自分を、嫌いになっていたかもしれません。

辛いことがあった時、1人で悩んでいる時、今でも先生の応援を思い出します。
どんな時でも自分の味方になってくれる人がいるはず。
心の中にいる春田先生が、怖くて前に進めない私の背中をずっと押してくれました。

もし今あなたに会えたなら、伝えられなかった精一杯の感謝と、あなたの期待に応えられるようにと胸を張って生きてきたこれまでの人生を、思いっきり伝えたい。