笑顔が素敵なおじさま店主が迎える、お気に入りのトンカツ屋さん

お気に入りのトンカツ屋がある。そこで過ごす時間は私にとって贅沢なものだ。誰かと一緒にごはんを食べることも楽しいが、このお店に限っては1人で行った方が好き。

お昼は混むため、夕方の空いてる時間帯に行く。店内はこじんまりとしていて、テーブル席が2つと、カウンターのみ。1人でカウンターの端に座り、ゆったりとした時間を過ごす。

店内は常にお洒落なジャズ音楽が流れている。店主は60歳くらいの笑顔が素敵なおじさま。アシスタントで奥さまも調理場にいる。
トンカツを注文すると、ジャズのリズムに合わせて、店主がお肉を取り出し、卵液やパン粉をつけて、丁寧な手つきで鍋に入れる。まるでドラムのスティックのようにノリノリで菜箸を回しながら、トンカツが揚がるのを待つ。

その間に前菜がでてくる。3種類の盛り合わせは毎回少しずつ違うが、どれも美味しい。かぼちゃサラダや玉ねぎのマリネなどシンプルな料理だが、ふと思い出して食べたくなるようなホッとする味。

店主との雑談の時間も楽しい。なんてことのない内容だが、ニコニコ笑顔のかわいいおじさまと話すのは、それだけで癒される。
いまはコロナ対策としてマスクをしているため、店主の素敵な笑顔を見ることができない。本当に残念だ。それでも目尻の下がった優しい目元と、穏やかな声色で十分癒される。

店主と奥さまの会話も面白い。突然、家庭内でするような話が始まる。今度、子どもが孫を連れて帰ってくるから、どこに遊びに行こうか。近所の田中さんはワクチン接種後の副反応が大変だったらしい。
大声ではないものの、カウンターに座っていると普通に聞こえてくる。盗み聞きをしてるわけではない。聞こえてきちゃうだけ。こういう他人の夫婦の会話が聞こえてくるのも、個人経営のお店の良いところだと思う。

好きな食べ物を、好きな店で、好きな雰囲気の中で食べられる幸せ

トンカツが揚がると、手際良く、リズムよくトンカツを盛り付ける。トンカツとキャベツの千切り。ごはんと味噌汁と漬物。本当に美味しい。
トンカツは衣が薄く、サクサク感がありながらも、脂っこくない。私はいつもロースカツを食べるが、ペロッと食べれてしまう。今まで食べたトンカツの中で、ダントツに1番美味しい。友だちにもおすすめをしており、連れて行った友だちがみんなハマる。県外に住む友人も、また遊びに行く時はあそこのトンカツを食べたいとリピートを要望する。

トンカツが食べ終わると、食後にコーヒーとデザートが出てくる。デザートはグラニテ。シャーベット状の氷菓だ。シャクシャクと冷たいグラニテを食べながら、あたたかいコーヒーをいただく。

レジは、年代物の手動の手回しレジスター。最初に来店した時は飾りの骨董品だと思っていたので、いまだに現役と知り驚いた。奥さまがハンドルをぐるぐる回すと、大きな「チーン」の音を鳴らしレジが開く。お会計を済まし、軽快なジャズを背に店を出る。

私の大切な1人時間。もちろん誰かとごはんを食べることも好きだけれど、1人でちょっと贅沢なごはんを食べることは、これからも続くだろう。好きな食べ物を、好きな店で、好きな雰囲気の中で食べることができるなんて、私はとても幸せだな。