学生の頃から一匹狼に憧れていた。
ひとりで教室の隅で本を読んでいたり、風が揺らしたカーテンから覗いた青空を見上げている男の子。
どのグループのどの子とも喋るけど、自分はグループに属さず、自由に振る舞っている女の子。
ひとりになってしまったんじゃなく、自ら選んでひとりを謳歌している子は常に私の関心を引いた。
それは学校外でも同じで、お洒落なカフェでひとり勉強している大学生や、ひとりでBarなんかにふらっと入れてしまう大人女子にたいしても。
でもなれなかった。

ひとりカラオケ、ひとり焼き肉、ひとり旅、私はなにもできない

私はひとりで過ごすのが苦手だ。
ひとりカラオケ、ひとり焼き肉、ひとり旅、なにもできない。
今、テレビ局に勤めている関係で、転職してから社内試写をひとりで観たことはあるけれど、ついつい感想を共有できる誰かが欲しくなってしまう。

私は休日ひとりで過ごすより友達や恋人と出掛ける方が好きだ。
就職前はそれこそ旅行やショッピング、カフェめぐり、映画ととにかく家で過ごすことがないよう予定を詰め込んでいた。
それは就職後も概ね変わらなくて、仕事が忙しかろうが連勤しようが夜勤明けだろうが、予定を入れて誰かと過ごすことこそ有意義だと思っていた。

ひとり時間を充実させることが私の急務となった

今もその価値観はそんなに変化していない。
でもコロナ禍になって、そうも言っていられなくなった。
家に籠もるのを苦手としていることも相まって、私のような外出したいタイプにはコロナ禍はきつい。
誰とでもなんでもいいから少しだけ喋ることでこんなに気分が晴れるのかとちょっとした発見があったりした。
自分で自分のご機嫌をとり、ひとり時間を充実させることが私の急務となった。

洋服もメイクも纏う香りさえも誰と逢うかで変える私には、それは結構難しいことだった。
誰かと食べるご飯の場所を調べていくつも候補を挙げるのも、予約をするのも楽しいことで、少しも苦じゃないけれど、ひとりとなると作るのも買って帰るのさえ面倒。
いいところでランチなんてお金の無駄とさえ思ってしまう。

映画、小説、ドラマの物語にひたるのも、友達とのZOOMも素敵な時間

そんな私がまず着手したのは、気取って言うなら物語に浸れる時間だ。
映画、小説、ドラマ。
没頭できるストーリーを観たり読んだりする。
映画館のような臨場感や興奮を分かち合う相手はいない。
でもひとりでじっくり映画を観ることで得た気づき。
こっそり観たい官能的なものにも挑戦しやすいし、聞き逃した台詞も何度だって聞ける。
小説にのめり込みすぎて、気づけば窓の外は夕暮れ。
なんて休日も悪くないと思えるようになった。
お供に紅茶やスイーツがあれば完璧な素敵時間。

会話欲が満たされなくてアナログ女の私も最近やっとZOOMを取り入れた。
ZOOM映えするケーキとワイングラス。
はたまた美容優先で健康志向のナッツ&ドライフルーツと100%野菜ジュースをお供に。
可愛い部屋着にバッチリメイク。
一番お洒落に部屋が見える画角を見つけて照明も調整すればスタンバイOK。
6年ぶりにバイト先の仲間達と6時間以上深夜まで喋り倒したり、石川県能登島に住んでいる友人と画面越しに話をするのは、予想以上に面白かった。
直接会いたいという拘りさえ捨てれば、コミュニケーションはこんなにも豊かな形でとれるのだなと思った。

きっとコロナ禍など関係なくひとり時間を存分に満喫してきた人からすれば「この人は今更何をベタなことを」と思われるだろう。
でも私のような初心者には最近やっと実感できるようになったささやかな喜びであり、ちょっと大人になったような気分なのだ。

「贅沢な時間だな。ひとりの時間も悪くないな」と思った自分に驚いた

昨日、初めて予定がないのに消化するために有給を取ってみた。
去年までは誰かと約束がなければ、なんの躊躇いもなく捨てていた有給。
でもそれを「もったいないよ」と言ってくれる人がいて、休みを取ってからひとりの予定を入れてみた。

健康診断に豊洲まで行き、職場の先輩がオススメしてくれたカフェでひとりランチをし、銀座の美容院で髪を染めて、運転免許の更新の写真を撮った。
思いのほか健康診断が早く終わって美容院まで時間が空いた。
今までだったら「この一時間無駄だな、時間の貯金箱欲しいな」と損した気分になっていた時間を「贅沢な時間だな。ひとりの時間も悪くないな」と思った自分に驚いた。
自分が小さな枠に嵌まっていたんだなと気づいた瞬間でもあった。
有楽町まで足を伸ばして、コスメを眺め、春服を見ているだけで気分が高揚した。
これからは誰と会うか何処へ行くかだけじゃなく、「自分が着たい、自分が欲しい」だけでスカートやアクセサリーを買ってみようかな。
着ていく場所がないなら、自分で素敵な予定を入れればいいし、見せたい誰かがいないなら、自分ひとりで身につけて街を闊歩すればいい。

やっと少しひとり時間を楽しめるようになってきた初心者の春。