どの時代の、どんな瞬間の「おかあさん」も大好きだから

もし今あなたに会えたなら。いつの時代のあなたに会いたいと願うのが一番強いのだろう。
22年間、育ててくれて一生分の愛を育んでくれた期間中？
私を生んでくれて（つまりは「初めまして」をしてからのことなのだけども）、周囲から「おかあさん」と呼ばれるようになってから？
自分を授かるとは、つゆにも思わず、3人の兄姉たちとの暮らしに一定のリズムを掴んだなって感じた頃？（そしてその約10年後に私が産まれる訳で）
愛嬌のある、まあるいキャラクターのような父に出会った若かりし時？
母として、人としての在り方を学んでいた学生時代？
そもそも私の母となるあなた自身が生まれた、その喜びに満ちた一瞬？

難しいね。一生をかけても、私にとって一番大切で在り続けるおかあさん、あなたが生きたひとつだけを切り取って選ぶなんてできないことで。
だって、どの時代の、どの期間でも、どの一時でも、どの一瞬でも、私が大好きである「おかあさん」であることに違いはないんだもの。

たくさんの暖かさで満ちて、優しさあふれるところ。誰に対しても同じように接し、味方だよと穏やかな表情で示してくれるところ。まっすぐで正義感が強いところ。生きている動植物にだって愛情を変わらずに注ぐところ。
22年間一緒に過ごした日々のすべての記憶が鮮明にある訳では勿論ないけれど、空気感というのかな。おかあさんの周りに漂う優しさが、目をつむると、耳を澄ますと、なぜか感じちゃうんだよ。

どんな味付けだったかなとか、どんな声だったかなとか、正直に伝えると段々と記憶は、おぼろげになってしまったんだ。
だからこそ、おかあさんと一緒に味をみながらご飯を作った日も、お父の発言だったり、愛犬の表情豊かな言動だったりがおもしろくて笑っちゃった日のことも、まるでカメラのレンズで切り取ったみたく、パッと鮮明に思い出すんだから、私の目で見た一瞬や一時は（自分でいうのも悲しいけれど）、私のちっぽけな頭の中のアルバムに刻まれているんだよ。アルバムなので味覚とか聴覚とかが添付できないということにしておいて。

見守ってくれているおかあさんに会えたら、一言目は「おかあさんっ！」かな

「おかあさんのイメージカラーは、ラベンダーね！」と言ったら、とっても優しく嬉しそうに微笑んだその一瞬は、頭の中にある“彩りアルバム”に大々的に飾っておくよ。
私が運転する車の助手席からくれたお返しイメージカラーは、淡いブルーだったから、何か雑貨とか見てるとき、気づいたら最初に手を伸ばすのは青系。
晴れやかな空を指さしながら、おかあさんの中での私のイメージカラーを示してくれたその時間は、音声無しのショートムービーみたいに繰り返されているし、おかげでそれまで以上に、眩しい光が注ぐ方向を見上げてしまうのが癖になっているんだよ。

ひとしきりに書き連ねてみたけれど、あの青い空の中で、みんなを見守ってくれているおかあさんに会えたなら、一言目に何を選ぼうか。やっぱり「おかあさんっ！」かな。
いつも通りに微笑んでたたずんでくれているでしょう？きっと何か言いたいのに、何から話せばいいのかわからなくて、順序通りに説明するのが特にも下手くそなもんだから、考え込んでしまうかもしれない。それでもおかあさんは何も言わずともわかってくれるんだ。
その時間があまりにも愛おしいから、勿体ないなと思いつつ、私は目をつむってしまって、段々と心地良い暖かさに包まれて、少しの間、夢をみる。昔からおかあさんの側にいると、眠り心地が良いのを知っているから。

当分、先の話だけれど。また会える時の喜びを膨らませて生きていく

サヨナラをしてから3年経っているから、おかあさんに聞かせたことない仲良しさんをたくさん教えてあげよう。
いつものごとく、おかあさんは誰が誰だかわからないままに話が進んでいくんだけど、間に入れてくれる相槌のリズムが楽しくて、私は歌うように「あのね」を繰り返す。一緒に過ごした22年と変わらずに、どれだけの小さな発見でも、まるで奇跡が起きたみたいに話をするよ。

Ifで始まるもしもの世界は、きっとこの現状だとすぐには体感できないかもしれない。でも私はある方法を知っていて。おかあさんのキレイな戒名に含まれている「月」を見上げては、心から話していることがあまりにも多すぎてさ。
優しく輝いているそれは、おかあさんが微笑んだ瞬間に、まとう空気と一緒だね。

おかあさん。
私が直接同じ世界にたどり着くのは、当分先のことと思って。今はあなたが見守るまなざしを月の輝きと捉えて、また目をつむろうと思うよ。
あなたに会えた時の気持ちを膨らませながら。