「俺、彼女と同棲することになった」
久々の連絡。他愛もない話。そして、突然の報告。
「えー!いいなー、同棲!私したことないから憧れるわ〜」
頭は真っ白になりつつも、言葉を考えるより先に指先が文字を打っていた。

中学からの男友達の彼が、私の知らない誰かと一緒になる

親友歴14年。中学入学時からの仲。お互いの好きなことも嫌いなことも沢山共有してきた2人だった。そんな彼からの報告に、どう反応するのが正しいのか、何を言うべきなのか、思考回路が迷路になる中で、最後に私はこんなことを送っていた。
「じゃあ、もう電話とかしない方がいいよね?」
昔から女友達が少ない私にとって、とても貴重な友達の1人だった彼は、同じ中学だった。漫画やゲーム好きなことも共通して仲が深まり、それをきっかけに彼の周りとも仲良くなった。お互い好きな人ができれば正直に打ち明け、私の友達が彼に思いを寄せていると知った時は、キューピッドになった時もあった。
「男女の間に友情は成り立たない」なんて言う人もいるけど、私と彼の間には確かにそれが成立していた。それ以上の関係を望むこともなかったし、彼の幸せが私の幸せでもあったのだ。
地元は狭く、小さなド田舎。彼氏彼女がお互いにできれば、どの人が相手かなんとなく把握することができた。だからこそ、安心しきっていたのかもしれない。想像できなかったのかもしれない。
彼が「私の知らない遠くに住む誰か」と一緒になることを。

違う高校に行っても「ウィルコム」が毎晩2人をつなげてくれた

私と彼の友情が更に深まったのは高校生の時。別々の高校に進学し、絡む機会も減るかと思ったが、お互い携帯電話を買ってもらい、それとは別に、「ウィルコム」を買ったことがきっかけだった。ウィルコムを持つユーザー同士であれば通話無料という特典に惹かれ、購入に至ったのだ。
ウィルコムは私の日々を輝かせた。女子生徒が多い高校でなかなか馴染めないこと、彼氏ができないこと、勉強はまぁまぁついていけていること、そろそろみんなで集まってまたゲームやりたいこと。彼との夜の通話時間は私の大きな楽しみだった。
それは彼も同じだったらしく、週に2、3回は2時間ほどの長電話をするのが日課になっていた。

社会人になり、会話に出てくる登場人物が知らない人ばかりになった

時は経ち、私は県外の専門学校へ、彼は県内の大学へ進学が決まった。
大きくライフスタイルも変わり、連絡を取ることも減ってしまったが、携帯電話はスマートフォンになり、LINEで気軽に近況報告をするようになった。この頃から、ウィルコムの出番は一気に減ってしまい、それと並行するように、電話の頻度も減っていった。
お互い社会人になり、以前は週に2、3回していた電話も、月に1回、3ヶ月に1回と、だんだん間隔が空くようになった。会話に出てくる登場人物は知らない人ばかりになり、彼女ができた報告を受けた時も、どんな人なのかすぐには想像することが出来なかった。
「きっと優しくて可愛らしい子なのだろう。あいつのことだからそうに違いない。幸せになってほしいな」なんて思いながらも、どこの誰か分からない彼女の存在に、正直モヤモヤしている自分もいた。

私の知らない誰かと暮らしていても、友情の証のウィルコムは捨てられない

そして、先日受けた同棲の報告。頭が追いつかなかった。
同棲ということは、常に彼女が家にいるってことだよね?電話なんてもうできないよね?
そう思っていたが、
「まぁ、たまになら大丈夫だろ!」
と、返してくれた彼。
ウィルコムを使うことは無くなっても、連絡の頻度は減ってしまっても、それでも今でも私は大切に持っているよ。捨てることなんてできないよ。だってあれは、私たちの友情の証なのだから。いつか、懐かしいね、なんてまた笑い合いたいね。