下世話なうわさ話と、記憶の中の彼は結びつかなかった

「そう言えばあいつ、セフレ居るんだって」
えー嘘。小さなワンルームに下品な笑い声が響く。声の主を見れば、部活仲間の一人。私と彼の共通の友人だ。
「人は見かけによらないって本当だね」
友人の言葉に適当に相槌を打つ。記憶の中の彼を思い浮かべる。私より少しだけ高い、つまりは男の子にしては低めの子だった。目が大きくて、ゆるキャラのような愛嬌があった……気がする。

傍から見る限り、彼女は絶えない人だった。それでも、身体だけの関係を持つ女がいるような人には思えなかった。
「大学デビューってやつかな」
何の気なしに呟く。高校を卒業して二、三年も経てば人は変わる。私だって、高校時代毎日のように顔を合わせていた友人に再会したとき、認識してもらえなかった(酷い話である。コンタクトにして、纏めていた髪を下ろしたからだろうけれども)。

「そうだとしたら何かダサいね」
友人はぽつりと呟いた。

再会して一緒にゲーム。相変わらず幼い顔立ちだけど、変わったところも

彼に再会したのは、その一年後だった。
遊びに行った高校同期の家に彼もいたのだ。記憶の中と少しも変わらない。
私と殆ど変わらない背は、私がヒールを履いたことによって逆転していたし、幼く見える顔立ちも相変わらずだった。とてもセフレをとっかえひっかえしているような人には見えない。

けれど、変わっていることも多少はあって、二人とも校則で禁止されていた免許を持っていたし、アルコールを飲めるようになっていた。興味本位で聞くにはデリケートな話だから、セフレ居る?なんて言えなかった。
ドラッグストアで買った安いリキュールを、1リットル138円の炭酸で割る。濃い紫があっという間に夕暮れの色になった。

それをお供に、ゲームのコントローラーを握る。上からちかちか瞬きながら降りてくるブロックをみっちりと埋めていく。一連鎖、二連鎖、三連鎖。
いけー。ぼっこぼこにしちゃってー。友人の声を背に、指を動かす。あともう一息というところでYou Loseの文字。

「やっぱり強いね」
「こういうのは慣れだよ」
一時期ハマってやりこんでたしね。休憩中、スマホにもの凄い早さで指を走らせていた姿を思い出す。その集中力と熱意に驚いたものだ。私にとってゲームは息抜きで、称号やランキングのためにやるものではなかったから。
「なんてことなくなるから」
彼は手元の酒をあおった。アルコール度数の高い茶色の液体は、彼の口の中にするするとのみ込まれていく。
「確かに、飲める量も増えていくしね」
「そういうこと」

いつも丁寧に返事する彼の珍しい答え。途端に彼の像が崩れたよう

彼はコントローラーを置いて、友人の輪の中に入っていく。ちょうど恋バナになっていた。年頃の人間が集まれば、この手の会話は避けては通れない。

「……とくに今はそういうのはないかな」
そういう君は?恋人の有無を聞かれた彼は、そういって他の人にパスを回す。
何にでも丁寧に返す彼が、珍しい。そう思うと同時に、何となくセフレの話は本当かもしれないと思った。途端、私の中の、勝手に持っていた彼像が崩れていくような音がした。

彼はいい知り合いで、そこに恋愛感情はない。私はもっと背の高い人が好みだし、彼の元カノは皆私よりも10センチは低い。だけど、人の下世話な話は聞きたくなかったなあと、広がった彼との距離を見て思った。