薄暗い月明かりに照らされて、誰も住んでいない部屋がボンヤリと見えた。
もう、この部屋に彼は住んでいない。私の長かった恋がやっと終わった。
悲しみよりも何よりも、1人の男性に凄く執着した2年の月日から開放される身軽さの様な気持ちがあった。スッキリとした気持ちもあった。
誰も住んでいない「入居者募集」の部屋は、裏に周るとカーテンも無いので、部屋の中が丸見えだった。ここには、2年前に私と結婚の約束をした元彼が住んでいた。

急な坂が辛いマンションへの道も、もう登らなくて良いんだ

彼は、自営業の電気修理を父親としていて、実家には住まず、実家から近い、このマンションに住んでいた。彼は、このマンションの1階に住んでいて、家賃が御手頃の割には広い部屋を気に入っていた。私は、彼と付き合い始めた2年前に、2回程彼の部屋に入れてもらった。
彼と話したテレビが置いてあった部屋。隣の部屋は、彼のお気に入りのベッドが置いてあった部屋。何も置いてない寂しい部屋を見て、月明かりに照らされながら元あった時の部屋を想像している内に、胸が苦しくなり、更に苦しくなる前にマンションを離れた。
彼のマンションは、急な坂の上に有り、行きは急な坂を登らないといけないので辛かった。でも、これで2度と、この急な坂を登らなくても良いと思うと気持ちが楽になった。
この恋は、私なりに頑張った。いや、頑張り過ぎた。
私が今登っているのは長崎県の坂だ。私は埼玉県に住んでいて彼は長崎県に住んでいて、生まれて初めての遠距離恋愛だった。

彼に会えてなかったら、私は長崎に6回も来る事は無かった

本当は、2年前の初めに私は彼から遠距離を理由にフラれていた。しかし、私は彼にゾッコンだったから諦めずにズルズルと彼に執着して2年が過ぎてしまった。
この2年で長崎県には6回来た。全部、彼に会いたくて1人で長崎県に飛行機に乗って来た。成田空港から長崎空港まで片道1時間半だ。特に長いとは思わない。
長崎県に来た初めの頃は、長崎県は詳しくも無いし知り合いもいなくてビクビクして移動していたが、流石に3回、4回と回が増えてくると、1人で気楽に長崎県内を動く事が出来た。今では、長崎県内の観光地も1人で楽に行けるし、誰かに案内も出来る。
もしかしたら、長崎県の人より長崎県内の美味しい店に詳しいかも知れない。それ位、私は長崎を堪能してしまった。
彼と結婚の約束までしたのに、直ぐにフラれて失意のドン底に落とされて悲しんでいたけど、もし彼に会えてなかったら私は長崎に6回も来る事は無かったし、もしかしたら一生長崎を1人で行動出来る事も無かったと思う。
失恋は、凄く辛い。でも、そこから学べるコトは沢山ある。今は、そう思える。
彼が住んでいない部屋を見て、彼への未練も無くなった。もう、テレビや新聞や町の至るトコロで長崎の夜景を目にしたり、長崎弁を耳にしても心は切なくならなくなった。もし今、アナタに会えたなら、私は彼にハッキリと言いたい。
「私をフッてくれて有難う。私は、アナタより素敵な男性と幸せになります」