物心ついた時からずっと服が好きで、学生時代もアパレルでアルバイトをして、当たり前のごとくアパレルの会社に就職して数年。
自分に会いに来てくれる顧客様も増え、順調に販売員としてのキャリアを積んで毎日が充実していたし自分に自信もついていた。

でも、ふとした瞬間に
「私っていつまでアパレル続けるんだろう?」「服が好きなのは間違いないんだけど、私のやりたいことって本当に販売なのかな?」
という気持ちが生まれた。

「やってみたい」。行動力と勢いだけでメディアに連絡をしたあの時

そこで初めて”転職”という文字が頭をよぎった。
そんなとき、いつも休憩時間に見ていたファッション系メディアの記事を見ながら、
なぜか「これやってみたい。服が好きでずっとアパレル業界に居るからこそ言えることがあるはず!」
と急に思い立って、そのメディアに連絡してみた。

そしたら返事が来て「ぜひお話ししましょう」と。
勢いで履歴書と自己PR文を書き始めた。
自分で言うのもどうかと思うけれど、今思えばあの時の行動力は凄まじかった。

だけど、その時ふと思った。
私の長所って?人より優れていると誰かに胸を張って言えることは何?
同じ業界に転職するなら、いくらでも長所は出てくるし今までの経歴をしっかり見てくれるに違いない。
でも、他の業界にいくとなると「コミュニケーション力がある」とか「笑顔」とか、一般企業の営業さんは当たり前にできることで……。
そんなことしかないのかと鼻で笑われるような気もした。
ましてや「売上が一位で〜」とかそんなものは通用しなくて。

今まで長所だと思っていたことを書き出せば書き出すほど自分がどれだけ狭い世界に居たのかを思い知らされてこんなにも薄っぺらい人なんだと痛感した。
何の肩書きもない、何者でもないただの人なんだと。
違う業界に行ったら途端に何もできない人になる気がして、急にこれからが不安になった。

「好きだからこそ伝えられる」。熱意で転職が決まるも現実は無力で…

ただ、そんなこと言っている暇はなくて、思いつくだけ自分の長所を詰め込んだPR文を書いて担当者の人と会う日を迎えた。
結果は、ぜひ一緒に働いてほしい。という嬉しい返事だった。
私だからこそ伝えられることが絶対にある!という熱量が伝わったそうで。
むしろ私は終始それしか言っていなかったと思う。

そんな喜びも束の間、めでたく転職が成功したものの、やっぱりこの業界では無力だった。
今までの経験なんて正直ひとつも活かせない。
”好き”の気持ちだけじゃ何にもならないんだな……と。
あの時の不安が的中したのと新しい環境に馴染むために毎日気を張っていたのとで、すごく気持ちが落ち込んだ。
けれど、人見知りしない性格と負けん気の強さで、ちょっとずつだけど気持ちが前向きになってきた。
優しい人が多かったのと、時間が経ってできることが増えて少し気持ちに余裕が出てきたのもある。

そしてそれからまた数年が経って、今はまた違う業界にいるけれど、転職するときに前のような不安はなかった。
それはやっぱりあの時に自分を見つめ直して、どれだけ自分が狭い世界に居たかを思い知らされたからだと思う。

「好き」の気持ちに突き動かされ行動したからこそ得られた今がある

だからこそ忘れてはいけない。
今の自分には知らないことがたくさんあって、極端かもしれないけれど、他の業界では使いものにならないかも、という気持ちを。

あの時、一歩踏み出して居なかったら私は、とても狭い世界で自分のことをよく知らないまま天狗になっていたかもしれない。
もちろん自分の不甲斐なさや無力さを知りたい人なんて居ないだろうし、私だって知りたくなかった。
でも、それを知ったおかげで見える世界が変わったし、自分の長所と呼べるものも増えてきたと思う。

”好き”の気持ちに突き動かされて行動してみてよかった。
これからも新しい経験をたくさんしながら生きていきたい。
こんな風に思えるようになった自分のことも、前より好きになった。
そう思うと、知りたくない事実を知るのも悪くないのかもしれない。