「産んで育てて老いてゆく」って、そんなに素敵かと不思議だった

産んで育てて老いてゆく。いいよねぇ、人間ってサ。
人間に憧れ、人間を真似て人間のように暮らす妖怪の言葉である。
私の大好きな小説の大切なワンシーン。
「産んで育てて老いてゆく」
そんなに素敵かなぁと、当時小学校中学年の私は不思議に思っていた。
子を生んで育てて。それこそが女性の幸せ。今時そんな人ばかりじゃない。
バリバリ働いて、自立して。
私はそんな逞しい女性になりたいと思っていた。
生んで育てて老いてゆく、よりも、働いてお金を好きに使って、一生涯独身で、最後はお風呂付きの小さなホームで終えたい。
そのくらいリアルに考えていた。
妊娠も出産もどこかひとごとで。

20歳あたりから、どんどん重くなる生理痛に耐えきれず、婦人科に受診したのは去年の夏の終わり頃だった。
大きな病気は見つからなかったが、女性ホルモンの数値が悪く、漢方療法と、ピル治療が始まった。
漢方は即効性はないが、とにかく辛抱強く飲むことが大切と言われたので真面目に飲み続けている。
ピル治療は、ピル自体が体に合わなくて、何度も吐いて目を回した。
数値はやはり改善せず、私は治療のためにきたのに、吐き気や頭痛で体調を崩しがちになった。

「産めない」可能性を前に、今ある身体との付き合い方を考えた

とうとう、根をあげると、
「子供、産めなくなってもいいんですか」
医師から咎められ怖くて不安になった。
やい、子供なんて。出産なんて。
一生涯独身でいいやい、と思っていたのに。
いざ、「子供、産めなくなりますよ」といわれたら……。
リアルに「あぁ、私は一生ひとりぼっちかな」と。
「産まない」のと「産めない」のは全然違っていた。
私の場合だと(多分)産まない(かも)だったのだ。
姉二人の結婚、妊娠、出産を間近で見てきたせいもある。
体を張って、命がけで命を産んでいる。
真っ赤で小さくてくしゃくしゃでシワシワで。この世のものとは思えないくらい可愛いかった。

「人間、いつか灰になるのだから」
そう言ったのは、母だったか、父だったか。祖母だったような気もする。
結婚の延長線上に妊娠も出産も存在しない。
結婚しても子を望まない選択肢もある。
ましてや、妊娠も出産も生命のキセキ。
母は40で私を産んだ。
父は、50手前で4人の子の父になった。
祖母は60過ぎてから私を育てた。
「産んで育てて老いてゆく」
案外自分でもアリなのかも。
だって人生なにがあるかわからないんだし。
その時がきても、こなくても。
後悔しないように。
どちらの選択もできるように。
今ある身体との付き合い方を考えていこうと思う。