「ピンクの子って覚えてた」
今から7年前、夫が初めて私にかけた言葉だった。
「頭悪そうですよね」
と応えると、
「あ、自覚はあるんだ」
とストレートパンチが返ってきた。
ここまではっきり言われたのは後にも先にもこの一度だけだし、当時は20歳の私は、そんなに重く受け止めなかった。しかし、歳を重ねるにつれ、こういう見方をされているだろうという自覚は強くなってきている。

遠くから見ても分かるほどピンク好き。ピンクは私のアイデンティティ

物心ついたころから、ピンクが好きだった。
女の子=ピンクのイメージはあるけれど、実際のところ、多様性が尊重される現代社会では、ピンクを身につける女性は一握りだ。
母は祖母が買い与えすぎたからだと言うけれど、この歳になっても変わらないのだから、生まれ持ったものなのではないかと思うことすらある。
小学生までは、ゆくゆく弟に譲るため、黄色のスキー板を買い与えられたり、公園に行く時は汚れが目立たない色の服を着せられたりして、よく駄々をこねていた。
そんな反動からか、私のピンク好きはエスカレートしていった。

中高一貫の女子校に入学すると、個性強めの女の子が200人もいる中で、ピンクは私のアイデンティティだった。本名にもちょっと似ているのもあって、時々ピンクちゃんと呼ばれるのもちょっと嬉しかった。
みんながそれぞれの個性を光らせている中で、ピンクの世間的イメージを、あまり深く考えたことはなかった。

大学生になって、女性が3割のキャンパス足を踏み入れると、夏にピンクの日傘を差しているのも、冬にピンクのコートを着てるのも、私だけだった。
「遠くから見てもすぐ分かる」と友人は笑った。冒頭の言葉をかけられたのもこの頃だった。
ピンクが好きって、こういう風に見られるんだ。初めて気付いた瞬間だった。

ピンクを卒業しようと思ったこともあるけれど、衝動を抑えられない

そんなキャンパスライフを終えて、社会人になると、外面を良くしようと、私服や鞄等、外に出るものはピンクをやめた。
しかし、今でも、お財布、スマホケース、キーケース、ポーチ、ハンカチ……鞄の中はピンク一色だ。
会社のデスクにもピンクのペン立てに、ピンクのボディのペンを入れている。誰にも理解されないが、視界がピンクだと、気分が上がって仕事も捗る。
誕生日には友達がピンクの花束や、入浴剤を贈ってくれるし、着任して1年の職場でも、異動していく先輩はピンクのボールペンを、ホワイトデーには先輩がピンクのマカロンを贈ってくれる。

周りの方も与えてくれるのだし、好きなものを身につけて何が悪いと思いながらも、4、50代の方がピンクファッションに身を包んでいるのを見ると、反面教師にしようと思ってしまうことはある。自分自身、昔より大分抑えているつもりでも、痛いなぁと言う目で見られていることもあるだろうなという自覚もある。

大人っぽいモノトーンやネイビーに憧れて、ピンクを卒業しようと思ったことも、何度かある。
高校生になった時、20歳になった時、社会人になった時、結婚した時……。
それでも、色の選択肢を与えられた時、ピンクを選んでしまう衝動を、毎回私は抑えられなかった。

いつか、完全にピンクを手放す日が来るのだろうか。ネイビーのお財布を持って、白いボディのペンを買うのだろうか。
今の私はまだその想像が出来ない。
だから、30歳になるまでは一旦考えないことにした。