私は買い物するのが速い。
欲しいものは欲しいと一秒で判断できる。
ダラダラとあっちのお店のあの服の方が安いけど、こっちのお店のこの服のが可愛いし……だのといったことはしない。
迷う時点でそんなものはいらないのだ。
洋服もコスメもヒールも全部そう。
両方欲しいなら両方買えばいいのだ。
そんなこと言ってる時間こそ、よっぽどもったいない。
同棲する部屋も式場も、ひとつしか内見していない段階で、ここがいいと即決した。
好きな男も嫌いな女も、会った瞬間すぐわかる。
いらないものも人間関係もそうだ。
迷い、そして辛くなるとわかったうえで決めたこと
そんな白黒ハッキリ即決派の私だが、「決断」と呼べるような大きな選択は今までいくつかしてきたが、すべてにおいて迷ってきた。
多くの人に相談し、たくさん悩んで、時にボロボロに傷ついたり、腹を括ったりしながら、「決断」してきた。
初めて就職した会社を辞める時。
愛してくれた人に別れを告げる時。
プロポーズを受け入れて人妻になるのを決めた時。
新築マンションの購入を決意した時。
いずれもその時考え得る、最大限に自分が幸せになる選択をしてきたように思う。
ただ一度だけ、わかっていて自分が辛くなる選択をしたことがある。
それは一人暮らしをする時だ。
学生時代は実家暮らしだった私は、就職と同時に一人暮らしを始めた。
勤務先は実家から無理せず通える距離だった。
でも、争いの絶えない家族との関係に悩むのに疲れ果てていた私は、大学を卒業したら、ひとりで生きようと決めていた。
金銭的にはもちろん実家にいた方が楽だったし、精神的にも新社会人として初めて飛び込む環境は不慣れなことや失敗の連続。
相談相手がそばにいれば、ずっと頼もしかったはずだ。
案の定、お金はカツカツで、ひもじい思いもたくさんした。
炭水化物抜きダイエットが流行っているのに、逆行して実家からもらったお米ばかりを食べていた。
外食場所には困らない誘惑に満ちた環境だったが、毎日職場にはお弁当を作って持って行った。
お風呂は一度も溜めて入らなかった。
人が来ない限りは暖房も冷房もつけなかった。
自分は寂しがりだと痛い程思い知った。
突然彼氏に電話してみたり。
後輩に24時間営業の飲み屋に付き合ってもらったりしていた。
一人暮らしの時間が今の私を形成している。あの決断は正しかった
それでも、ひとりで暮らしたから得られた収穫は多かった。
自分は一人暮らしが向かないこと。
自分の家事のスタイル。
節約の仕方。
家族とは物理的にも距離を置いて時々会うくらいがうまくいくこと。
中でも大きかったのは自由な夜の時間だ。
突然人を連れ込んだり、仕事が嫌になって深夜のコンビニでアルコールを買い込み、近所のTSUTAYAで18禁の映画を2本借りて、仕事の3時間前まで観たり。
そういったことは厳格で過干渉な家族の住む実家にいたら、とてもできなかった。
それに今もポンコツ妻だが、一人暮らししなかったら、さらに低クオリティの奥さんだっただろうと思う。
ありきたりだが、親のありがたみや実家のありがたさを感じたのも、一人暮らししたからだ。
あの苦しい時間は無駄じゃなかったと思いたいし、確実に今の私の一部分を形成した。
人生において、楽な道と過酷な道があったら、楽な道を選んだほうが歩きやすいし、多くの場合、それが正しかったりする。
大人になって狡くなって、なかなか昔のように自分にとって辛い道を選べなくなったようにも思う。
でも、今この瞬間の楽しさや気軽で選びやすい道ではなく、長い目で見た時に自分のためになれる辛い道を時には選べる自分でいたいと切に願う。