間違えた。
この卵焼き機、IHじゃなくてガスコンロ用だ……。

卵焼きが大好きな私。意を決して卵焼き機を購入したけれど

近所のスーパーでうろうろ迷うこと10数分。エイヤと意を決して買った卵焼き用のフライパンは、自宅のIHでは使えないことが判明した。
悩んだ挙句に、勢い余って間違ったものを買うとは……。
しばらく悔しさを噛みしめたものの、このまま引き下がる気にはなれなかった。ガスコンロ用の卵焼き機は知人に譲り、IH対応のものを新しくお迎えした。

小さい頃から、卵焼きが好きだ。
母の作る卵焼きは、みりんを入れた甘い味付けだった。しょうゆも少し入っていて、表面は少し焦げ、中はふっくら柔らかい。遠足や運動会などのイベントのときは必ずお弁当に卵焼きを入れてもらった。

もうひとつ思い出深いのが、卵焼きおにぎり。
おそらく小学校に上がる少し前くらいの頃、母が突然作ってくれた。テレビで見たのか本で見たのかは覚えていないが、何かのレシピのまねだったように思う。
ただ単に卵焼きを焼いて小さく切り、ごはんで包んで握っただけのものだったけれど、「おいしいもの×おいしいもの」の連鎖は子ども心に絶大なインパクトを与えた。今でも好きなおにぎりの具を聞かれたら、「ツナマヨと、塩こんぶと……あと、最近あんまり食べてないけど、卵焼きかな」と付け加えてしまうくらいには印象に残っている。

早速、卵焼きにチャレンジしたいところだが、ためらってしまう理由

さて、卵焼き機を購入した。
一人暮らしを始めて約1年、会社を辞めて時間もできた。そろそろ自分の好きなものを作って食べる生活がしたいなと考えていたところ、ふと思いついたのだ。
「自分で卵焼きが焼けるようになりたい……!」
思い立ったが吉日、途中でアクシデントを挟んだものの、自分だけの卵焼き機が手に入った。早速ファースト卵焼きにチャレンジ……といきたいところだが、いざ卵を焼こうとするとためらってしまう。

私は卵焼きが下手なのだ。

思えば実家に住んでいた頃も、卵焼きに挑戦する度に失敗を繰り返してきた。焦がし過ぎたり、綺麗に巻けなかったり、そもそも味つけを失敗したり……。お皿の上でぐちゃぐちゃになった「焦げ炒り卵」を何度一人で処理してきたか、数え切れない。

しかし、せっかく卵焼き機を買ったのだ。ここまできたらやってみるしかない。
「卵焼き 簡単 コツ」で検索してみた。すると無数に出てくるのだ、失敗せずにふわふわの卵焼きを作る方法が!
マヨネーズを入れる、何回かに分けて卵液を溶く、フライ返しを使って巻くetc……。
とりあえず、目についた方法を試してみた。マヨネーズを入れたのか、フライ返しを使ったのか、よく覚えていないがとにかく動画を流しながら見よう見まねで卵を焼いた。

卵焼きには、作ってくれる人の愛情も入っていたのかも

今までで一番綺麗な卵焼きができた。
これまでの失敗は何だったんだ、早く調べればよかった……とうっすら後悔しながらも、感激がそれを上回った。
私が自分で作ったのだ、卵焼きを!

うきうきしながらごはんを塩むすびに握り、追加でウインナーも焼いてお弁当のような夕飯をこしらえた。卵焼きはふわっと甘くて、とても好きな味だった。これからはいつでも好きな時に卵焼きが食べられるのだと思うと、おいしさもひとしおだった。

あれから約2年。
卵焼き機は、キッチンの棚の奥の方に仕舞われたままだ。
知りたくない事実だったが、卵焼きはコスパが悪い。1回あたりに卵を3個以上使わねばならず、食べきれなくて残しても時間が経つと味が落ちていく。一人暮らしには不向きなメニューだったのだ。
それでも、おいしかった記憶と自分を繋ぐ命綱のように、卵焼き機を捨てられずにいた。

最近では、休日になるとパートナーが棚の奥から卵焼き機を取り出し、私に代わって卵を焼いてくれる。
私にとっての卵焼きの味は、作ってくれる誰かの愛情もふくまれていたのかもしれない。
すっかり食べる専門になってから、ようやく気付いたのだった。