私は洋服のデザインに関わる仕事をしている。故にファッションが大好き、ピンクも大好きである。
自分が纏うことも、手がけるアイテムにピンクの色を与えることも、どちらも楽しくて好きだ。ピンクを纏えば気持ちが明るくなり、少しでも優しい人間に見せてくれる気がするから。
だけどこの世には、私とは違って「ピンクだから」という理由だけで、そのもの自体を敬遠する人も多くいる。
「私の年齢でこの色はムリよ」
「男なのにピンクはちょっと……」
そんな台詞が存在してしまうのは、ピンクが持つ“あまりにも強い先入観”のせいだ。

色んなピンクがあり、時に優しく、時に力強く包み込んでくれる

ピンクと言っても、この世には色んなピンクがある。
パステルピンク、コーラルピンク、ビビットピンク……こんな風に名前のついたピンクから名も無きピンクまで。
柔らかいピンク、強気なピンク、紫寄りのピンク、オレンジ寄りのピンク。春のピンク、夏のピンク、秋のピンク、冬のピンク……。
今着たいトレンドのピンクもあれば、去年流行ったピンクもある。
それぞれのピンクがそれぞれの意味や印象を持ち、身につけた私たちを時には優しく、時には力強く包み込んで、パワーを与えてくれる。
ピンクに限らず、色というものはそういうものだと常々感じる。

元気を出したいから赤やオレンジを、気持ちを落ち着けたい時は青や黒を身につける。
グラデーションのように広がっている世界の中の一部を、スポイトでピュッ!と抜いて、私たちが勝手に意味を持たせている。色なんて、数では表せないほどに無限にあるものだ。
普段から色と睨めっこしているような仕事をしていると、赤も青もピンクも、綺麗に分けたり一括りにすることはなんだか難しい。それほど多様であることが、色の魅力であって楽しくて、手のかかる可愛いところ。

圧倒的に強いメッセージと意味を持つピンクは拒む人も多い

名前を持つ色の中でも“ピンク”という色名は、やっぱり圧倒的に強いメッセージと意味を持っている。
愛情、母性、官能……。“女性らしい色”という印象が必ず付き纏い、まず男性をイメージする人はいない。

そんな強いメッセージと意味のせいで、「私にはピンクなんて無理」とか「ああピンクか、じゃあ似合わないわ」と、拒絶したり見てもくれない人が思っているよりもたくさんいることが、作り手としてとても悲しいことに思う。
そして、女性だけに焦点を当てて、“ピンク”という言葉を消費してきた世界にも疑問が浮かぶ。

「言葉」「メッセージ」というものはどんな物事もプラスにしたりマイナスにしたり意味を持たせたりと、多くのパワーを持っていると私は思っている。
「これはデニムと合わせてカジュアルなバランスが似合うピンク」とか、「主張しすぎない馴染みの良いピンク」なんていう風に、多様なピンクにそれぞれ意味や役割を与えることが出来る。そうやってモノづくりをしてきた。

「性はグラデーション」と言われるように、ピンクも同じ

そんな「言葉」「メッセージ」という技に反して、「捉え方」「先入観」という強力なライバルがいる。
捉え方を変えることでメッセージの意味を全く違うものにしてしまったり、先入観というバリアを張れば聞く耳さえも奪ってしまう。
ことピンクに関しては「先入観」「捉え方」というこのライバルが圧倒的に強すぎる。
それはピンクのせいではなく、過去にピンクにそういった意味を持たせ続けてしまった私たちの責任でもあるのだけれど。

私は女性だから、「ピンクリボン運動」なんかもありがたいと思うし、女性の価値を見直そうとする活動のアンチになるつもりはない。
だけど、ピンクであることを理由にファッションやメイクの幅を狭めている人がいることには、あまり納得出来ない。それは女性性にコンプレックスを持つ女性相手だけでなく、男性も含めてだ。

ピンクがいつから極端に“女性らしさ”の意味を持ったのかわからないけれど、少なくとも現代は女性と男性という二極ではない世界になってきた。
「性はグラデーション」と言われるようになったけれど、ずっと前からピンクだってグラデーションだったのだ。
人々が多様さを認めつつあるのだから、ピンクの多様さにも気づいてほしい。

「かっこよさを演出できるピンクの使い方」「紳士に見せてくれるピンクのアイテム」。そういうものだって探せばきちんと存在するし、必ず作ることができるはず。

先入観や固定概念だけで、ファッションの世界を狭めないで

どうか「私にはピンクなんて」と遠ざけないでほしい。
ピンクは女性的な色。そんな先入観や固定概念だけで、こんなにも楽しくてファッションという世界を、簡単に狭めないで。

ピンクを好む私にも、似合うピンクと似合わないピンクがあり、その取捨選択を楽しんでいる。
この世にはたくさんのピンクがある。
先入観を捨てて、ピンクの可能性を信じてほしい。

私は今後もモノづくりを辞める予定は無い。
ひとつひとつのアイテムに向き合って、それぞれが一番輝く色をつけてあげたい。
そして生み出したものたちが、もっと多様な世界で、たくさんの人に届くことが一番嬉しい。

5年後10年後の世界で、「メンズピンク」とか「男気ピンク」なんて言えちゃうくらいに新たなピンクの価値観が浸透してたらいいな。
「それはどんなピンクなの?」と興味を持ってもらえるくらい、ピンクを選択肢に当たり前に入れてくれる人が増えたらいいなとも思う。

ピンクの持つ世界は、みんなが思っているより、もっとずっと広くて楽しいのだから。