「アプリにこんな人いるの!?」と思ってしまうくらい素敵な彼

親友が、「知ってる人の中で一番素敵なカップル」と言ってくれる。
私はマッチングアプリで、「アプリにこんな人いるの!?」と思ってしまうくらい素敵な彼と出会った。
とことんお姫様扱いされたい私を、とことんお姫様にしてくれる人だった。4つ歳が上で、私の言い間違いも産毛も生理中のイライラも、全部「可愛いねえ」で包んでくれた。
仕事熱心で、サプライズが大好きで。同棲を始めて最初のクリスマスには、枕元にプレゼントを置いてくれた。
これまで頑張って半年、1年、と付き合った年月を指折り数えていた恋愛がすべて余興だったと感じてしまうほど、彼との“今日の連続”は尊いものだった。

それなのに。桜が満開になる頃、1年記念日を目前に控えた私は、目を合わせてくれない彼の方を向きながら、涙が止まらなくなっていた。
彼は、「……しちゃった」と言った私を前に、黙ったままだ。
押したことのないスイッチを押してしまった。私はめちゃくちゃにされ、翌朝目覚めると、荷物が全部玄関に出されていることに気づく。
「きつく言えないから、こうするしかないと思う」
そう彼は言った。

彼は、「彼女に浮気された彼氏」を演じきるスイッチが入っていた。そう、ここまでの7行は、完全なる妄想である。
ただし、涙が止まらなくなっていた。という事実を除いて。

彼は「もし本当に浮気されちゃったらどうするだろう」と考えた

私はいわゆるTikTokerで、「恋愛あるある」の動画を投稿している。「すぐやったか確認してくる女友達」というネタ動画を投稿した日だった。

好きな人が急に冷たくなったと相談してくる女友達の話を聞いていると、「…しちゃった」と打ち明けてくる。付き合う前に致して冷たくなる人は「自分のものになった!」と思ったらすぐ優先順位下げてくるやつだから大事にされない、と諭す役を私が演じていた。

彼がその動画を見ながら、「これ逆バージョンでやってもいいかもね」と言った。私と彼は2人ともフリーランスだからか、仕事の話もたくさんする。彼のアイデアを「そう?」と聞きながら、私はおふざけで、耳元で「…しちゃった」とつぶやいた。

「ダメー!!!」
彼はすぐさま止めた。彼は、私が彼にしか見せない“ワタシ”を大事な宝物のように扱ってくれていた。
そんな掛け合いの中、彼は「もし本当に浮気されちゃったらどうするだろう?」ということを想像し始めた。
その結果、「きつく言えないから、こうするしかないと思うな〜」とリアルな台詞を本気のようなテンションでつぶやく彼の即興劇によって、“もし私が浮気をしたらどうなるか”疑似体験することになったというわけだ。

1年記念日を目前に控えて、目を合わせてくれない彼を見ていると、演技だとわかっていても、罪悪感で涙が止まらなかった。
愛されているからだと思った。どんな時も、彼は歳上なのにどこか子犬を思わせるような笑顔でくしゃっと笑って抱きしめてくれる。私の腰が反ってしまうくらい勢いよく抱きしめて顔をぐりぐりしてくれる。
この愛が、一つの誓いの上に成り立っていて、決して無条件にあるものではないのだと思い知った。

彼を溺愛している自負がある私だけれど、涙が止まらなくなったのは想像できたからだ。学生のうちの恋愛で、私は何度も自分を好いてくれている人を傷つけてしまった。

幸せになれる理由があるなら、絶対に嘘をつかなかったから

今、彼が大事だからこそ、ぜっったいに同じ失敗を繰り返したくない。悲しませないために、その場限りの浮気心の煙が1mmも巻き上がらないように、事前にリスクは全部握りつぶす。そんな風に予防している自分が後ろめたく感じてしまった。

社会に出てから、世の中に浮気と不倫は当たり前に存在することを知った。しかしそんなものとは関係なく、彼と私は「一度でも浮気したら終わり」という誓いのもと、周りから嫉妬されるほど互いに愛を注いでいる。

私は、そこに嘘・ごまかしの入る余地がないところが気に入っている。「一度でも浮気したら終わり」という誓いはなんとなく、どのカップルでも持っていそうなものだけれど、意外とみんな嘘やごまかしを使っている。
私達が幸せになれる理由があるとすれば、絶対に嘘をつかなかったからだ。

記念日前夜、私は誓いが破られた時どうなるかを体感した。そこで自分の中にある弱さを思い知り、絶望したと同時に、誓いを死守している自分をちょっと好きになった。
疑似体験で浮気をした私は、1年記念日を迎えた。今日も、隣には彼がいて、「可愛いねえ」とたくさんハグしてくれる。
このハグの温度を、おばあちゃんになっても受け取れますように。