特集:出産について思うこと

命に責任を持つのが怖い。姉の膨らんだお腹を恐ろしく感じてしまう

出産について思うこと

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命の誕生は素晴らしい。けれど責任を問われるのが怖い

私は子供を産まない。産めない。体の問題ではなく、心の問題で。
怖いのだ。自分のお腹が膨らむこと、命が2つあること、命の責任を問われることが。
たまらなく怖くて怖くて、仕方ないのだ。

一番上の姉が子供を2人産んだ。
めでたいことだと思う。
両親は喜び、祖父母は初めてのひ孫に目を細めていた。
妊娠中、実家に帰ってきていた姉のお腹は膨らんでいた。
「触ってみる?」
姉に許可をもらえた。
膨らんでいる姉のお腹にゆっくりと手を近づける。あと数cm。

触れなかった。怖かった。
そこに命があることが。
姉のお腹にあるであろう小さな命は着実に成長していて、その命がお腹を膨らませていた。
お風呂場で裸の姉と会ったとき、姉のお腹はやっぱり膨らんでいた。
私のペタンコのお腹とは違う。太っている人のプニプニなお腹とも違う。
胸の下から柔らかいカーブを描いて膨らんでいる、少し張ったお腹。
姉には悪いけれど、まともに見ていられなくてすぐにその場を離れた。
気持ち悪かった?いや、ただただ怖かった。

これだけ技術が発達していても、ゼロから命を生み出すことには誰も成功していない。
21グラム。魂の重さ。
たった21グラムが、埋められない。
あらゆる技術者たちが何千年、何万年かかってもできないことを、母親たちは10ヶ月余りで成し遂げる。
神秘。奇跡。尊いこと。
命が生まれることは素晴らしいこと。
わかってます。でも、思うんです。
こんなに苦しい世界に産まれてくることは本当に素晴らしいことなのか、って。

産んだ子供が幸せを感じるか、絶望しないか、未確定だから怖い

昔、授業で教授がこんなことを言っていた。
「赤ん坊が産まれてくるときに泣いているのは、この世界に産み落とされたからだ。お母さんのお腹の中っていう世界一安全な場所からこの危険な世界にね」

一般的に親が子供の面倒を見るのは、20歳くらいまで。子供が自分で働けるようになるまで。
でも、その後の子供の人生はまだまだ続く。人生100年時代だから、20代なんてやっと1/5が終わったくらい。そして大体は親が先に死ぬ。自分が世界に産み落とした子供を残して。
子供の責任は親が全部取れって、言いたいわけではない。
生まれた子供はあなたが死んだ後も生きていかなければいけないこと、わかってる?って聞きたいだけ。
生まれてから味わった色々な苦しみは、産まれなかったら感じることがなかったんじゃないの?って思ってしまうだけ。
だから怖いのだ。命を産み出すことが。自分が産み出してしまった命が何を思い、何を感じ、どう生きていくか。幸せを感じられるのか。世界に絶望しないのか。産まれなければよかったと思うのか。
全部が未確定で、もしそう感じてしまったとしても私には何もできない。
私ができることは産み出すことだけだから。
その後の責任は取れないから。
だから私には、命を産むことはできない。

「生まれてきてよかった」と、子供が思える世界になりますように

姉の子供たちは今年3歳と5歳になった。2人ともわーわー叫びながら、楽しそうに走り回っている。
この子たちもいつか世界に苦しむことになるのだろうか。
産まれなければよかったと、思うことになるのだろうか。
姉のお腹はペタンコになっている。今は普通に触れるし見れる。
このお腹はまた、命を産み出すのだろうか。

私は子供を産まない。産めない。世界の苦しさが伝わるのが怖いから。
今生まれている子供たちが、少しでも幸せを感じてくれれば。産まれてきてよかったと心から感じてくれれば。
そんな世界になったら私も子供を産みたいと思えるのかもしれない。
今の所、そんな見込みはないけれど。
みんなが生きやすい、みんなが幸せを感じやすい、そんな世界を願うこと。
私にできることはそれぐらい。
願わくば、そんな世界になりますように。

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