私はなぜか部屋が汚い。部屋のサイズに対して物量が多すぎるから、あふれ出てしまうのだ。
多芸多趣味なために、それぞれの道具を一揃えするだけで、もう部屋はパンパンになる。
趣味は挙げればキリがない。小説を書くことはもちろん、読むことだって好き。しかも紙の本が好き。

ビーズやレジンを使って、イヤリングやネックレスのアクセサリーを作るのも好き。これは言うまでもなく、大量の資材がある。
カメラで風景や人を撮るのも、たまらない気持ちにさせてくれるから好きだ。たった一瞬のシャッターチャンスを狙って旅に出る。それもまた、いろんなレンズを買ったりして物量が増える。

さらに私はコスプレもする。衣装は基本的に自作である。そうなると必要になるのが布や装飾品、細々とした裁縫道具も大量になる。
そして、私の捨てられないものとは、この裁縫道具箱なのだ。

裁縫道具ひとつひとつ、すべてに名前を書いてくれた母

この裁縫道具箱は小学校の高学年の時に、家庭科の時間で買ったもの。なんてことはない、女児が好きそうなファンシーな箱と、初心者が使うであろう品が一通り入っている。
箱のデザインはみんなそれぞれカタログから選んだから違うけど、中に入っているものは一緒のはず。

でも、私の裁縫道具はちょっと違う。
箱本体のデザインは夜空をモチーフにしていて、まず真っ先にこれがいい!と思った。だけど、犬のデザインの箱も可愛くて悩みに悩んだ。
決めきれなくてお母さんに相談すると、「私もどっちも良いと思うなぁ。先生に外箱と中のちっちゃい箱のデザインを違うのにできないか聞いてみたら?」とアドバイスをくれた。

そこで先生に、外箱は夜空の箱を、小さい箱は犬のものをミックスできないか問い合わせた。
すると先生はあっさり「できるよ」と言ってくれた。
私は「私とお母さんの裁縫道具箱だ!」と嬉しくなった。

そして裁縫道具が届くと、何やらお母さんが夜なべしてゴソゴソやっている。
何をしているのかなーと思ったら、裁縫道具の全てに私の名前をフルネームで書いてくれていたのだ!
「こういう小さいものは失くしやすいからね」と。
外箱は言うまでもなく、まち針の一本一本まで余すところなく書いてくれていた。

私はそれが母の愛の結晶だと受け止めて、今でもその裁縫道具たちでコスプレ衣装を作っている。
この裁縫道具を使えるのが嬉しくて、縫い物がある学期の家庭科の授業は気合いいっぱい。評定も最高点だった。
学校ではまち針が無くなることもしょっちゅうで、それでも落とし物の中に私の名前が書いてあるまち針を見つけると、母の愛に心から感謝した。

何年も使い続けている裁縫道具を、私は決して捨てられない

まち針が錆びたり、折れたり、曲がったりして、使えなくなるたび悲しくなった。
チャコペンもこれ以上削れないし、握れもしない長さになっているけど、私の名前が書いてあって捨てられない。
どれを取っても母の愛の形で、到底捨てることはできない。

コスプレ衣装を作るから、もちろん道具は磨耗していく。まち針の名前なんて薄れてしまって、読みにくくなっている。糸切りバサミもちょっと切れ味が鈍くなった。
でも、私はこの裁縫道具たちを愛しているから、ずっとずっと捨てられない。

小さい頃から手芸が好きだった私にとって、思えば、母からの最高のプレゼントだったのだ。
もうお母さんは、裁縫道具たちに私の名前を書いていたなんてことは忘れてしまっているかもしれない。
それでもいい。
些細な行動だけど、私にとっては何よりの宝物なのだ。

コスプレした姿を見せるのは恥ずかしくて見せてないけれど、自作した衣装は見せることがある。どれもこれも、あの裁縫道具で作ってるんだよ!と胸を張って言うことができる。