電車でサラリーマン二人が家事の分担について話していた

先日、電車に乗っていた時の話だ。電車が停車したタイミングで、降りる駅まで何駅あるか確認しようと電光掲示板を見た時に、会社員の男性二人組が乗ってきたのが見えた。
一人はグレイヘアで六十代くらいの物腰の柔らかそうな風貌の男性。もう一人はハキハキした喋り方で、如何にもビジネスマンといったような風貌の三十代くらいの男性。
上司の男性が後輩に訊ねた。
「奥さんと家事の分担ってどうしてる?」

「家事ですか。買い物はどっちも。洗濯は妻。掃除は分担して、風呂掃除……はお互いに使うから半々かな。料理は妻が作ることが多いですかね」
「そうか。僕はね、基本的に家事は全て家内と半々なんだ。もちろん、相手の都合に合わせてどちらかが多く行う時もある」
「でもそれだと、仕事の後や休日に家事なんて大変じゃないですか?」
「そう?大変なのは誰がやっても同じだし、僕と家内、それぞれの生活があるから大変だって思ったことはあまりないかな。◯◯君のような線引きをした考え方でも今は平気かもしれないけれど、これから子どもができたら同じようにはいかなくなる。
大事なのは相手をちゃんと見ること。相手の負担が大きくならないようにする。僕たちは夫婦だけど、共に同じ家で生活を送るパートナーでもあるから」

なかなか切り込んだ話題だったにも関わらず、上司の男性は話し終えるまでニコニコとした物腰の柔らかそうな表情を一切崩さなかった。上司の男性にとってその生活が当たり前であることは、その表情からも受け取れた。
思わずまじまじとやりとりを眺めてしまってごめんなさい……と思いながら、私は用事があるので次の駅で降りた。
話を聞いてからどこか引っかかるものがあって、一日中、頭の片隅であの話がぐるぐると回っていた。

ワンオペ育児にならないために必要なのは、柔軟に対応する気持ち

『ワンオペ育児』という言葉を聞いたことがあるだろうか。大まかに説明すると、家事、育児を妻か夫のどちらかがそのほとんどを行うことである。
きっとあの上司の男性は、後輩の男性の考え方では後輩夫婦がその状態になりかねないことを見抜いていたのだと思う。恐らく子供をみごもった時、子どもが産まれた時に線引きした考え方のままでいくと、妻側の現在の家事の量にそのまま出産と育児の負担が上乗せされると考えたのだろう。

後輩の男性が上司との会話で「でもそれだと、仕事の後や休日に家事なんて大変じゃないですか?」と言っていたことからも察することができる。後輩の男性が「休日くらい休ませてくれよ」と言って家事をあまりしないタイプだと思ったのだろう。

仕事の後は家庭に帰る。家に帰れば妻がいる。そして子どもが生まれたら子どももいる。
仕事の後の家事を嫌がるのであれば、育児をするとも思えない。仕事のあとに手のかかることなどしたくないという気持ちはわかる。
……が、誰もがやりたくないけどやらなければならないものなら、他人だってやりたくないものかもしれない。やりたくないを理由に拒否してしまえば、そのやりたくないことを誰かがやらねばならなくなる。

この場合、夫側の負担も妻の負担に上乗せされかねないという事だ。家事と育児に置き換えて考えれば、ワンオペ育児になる可能性は十分すぎるほどあると言える。
夫婦で互いに納得していればいいのだけれど、もしも不満があるままで負担がどちらかに偏れば、生活が破綻するリスクがある。

「状況に合わせて臨機応変に対応できるようにしておかないと、こなすべきタスクが増えた時にどちらかの負担になってしまう」
あの会話上の上司の男性の発言の意図としては、こんなものだろうか。
柔軟に対応していかないとバランスは簡単に崩れる。負担がたまりすぎれば不満が生まれ、最悪の場合、夫婦仲も悪くなって共に生活を送ることすら出来なくなり、離婚することになる可能性すらある。

同じ家で生活を送るパートナーとして出産に向き合う

出産は夫婦でお互いの同意のもと、そして産む選択をするのであれば夫婦二人で支え合いながら行っていくものだと思っている。
妊娠したら、まず妊娠前と同じ生活は送れない。女性の場合は赤ちゃんの分だけ体は重くなるし、悪阻が始めれば身体的な負担だってある。

子どもが欲しいと思うだけなら簡単だ。でも出産についてちゃんと考えて欲しい。出産による生活の変化に対応できるか、夫婦で生活を成り立たせることができるか、ちゃんと示し合わせはしておくべきだ。

極論かもしれないけれど、生活が破綻しない状態をキープできる自信のない夫婦には出産を簡単に考えて欲しくないとすら思う。
家庭内で起きる負担、それをもしも夫婦のどちらもが放棄した場合 、回り回って誰にその負担がかかってくるかといえば、夫婦の近親や先に生まれた他の子どもたちかもしれないし、生まれてきた子どもである可能性すらある。

夫婦という関係性は「共に同じ家で生活を送るパートナー」という、あの男性の一言に全てが集約されていると思う。というよりも、それが本来夫婦としてあるべき姿なのだと思う。生涯のパートナーとして良好な関係をずっと保つためにも。

出産は夫婦間で迎える大きな見直しの機会の中では、かなり早い段階で迎えることになる出来事になることだろう。お互いにパートナーとして向かい合い、手を取り合って出産をむかえられる夫婦が増えたらいいと思う。